Text.16 - I met him on the stairs as I was coming up ページ16
医務室から一歩出ると、正面にあった窓から石畳といくつか建造物の壁が見えた。
左右に首を振れば石造りの廊下がそれぞれ奥へと伸びていて、エーミールさんが『こちらです』と右方向に爪先を向けたので、倣って私も歩を進める。
国のトップがいるという総統執務室は、この建物の4階にあるらしい。
エーミールさんの後ろに付いて歩いていると、時々すれ違う軍人さん達が挨拶ーされているのはもちろんエーミールさんーついでにこちらを不思議そうに見るのが何とも気まずい。
視線が痛く刺さって仕方ないので、どうにか紛らわそうと眼前の背中に話しかけた。
「これから会うトップの方って、どんな人ですか？」
「そうですね……彼は非常に頭が切れる男で、敵をも惹きつけるカリスマ性を持っています。同志達を先導してここまでの勢力を確立させたほどですから、とにかく戦略立てて人を動かすのが上手いんです」
「まさに上に立つ人間の器って感じですね。聞く限り弱点が見当たらないんですが……」
「彼の弱点ですか。えー……良くも悪くも戦争が好きなので、武器を取り上げたらしばらくごねますね」
「……なんというか、物騒な人なんです……？」
「まあ、戦争するために国を作ったと言っても過言ではないですからあの方は」
「物騒！」
背中越しに快活な笑い声。笑いどころだっただろうか。
「ぜひ本人の前で言ってあげてください。きっと笑ってくれますよ」
「無理です」
「ははっさすがに無茶でしたか」
さりげなく歩幅を合わせて隣に来ていたエーミールさんの横顔は本当に楽しそうだ。
かといって私もそうとは限らない。見かけによらず難易度の高いブラックジョークをかましてくる彼に、いちいち肝を冷やしている。
「お、エーミールやん。ちょうど今グルちゃん、が……」
と、そんな時。
ここまで聞いてきた挨拶の中、唯一敬語ではないフランクな呼びかけが頭上から投げかけられた。
少し前に階段に差し掛かり、そろそろ四階分の高さを登りきる頃ではと思っていた。
おそらく相手は四階から来たのだろう。
……私の姿を捉えるなり、硬直してしまったが。
「え、エーミールさん……私やっぱり場違いなのでは……」
「そんなことないですよ。ねえ大先生？」
「……」
「ほら、彼女困ってますよ」
「……エーミールお前……まあ、ええわ」
眼鏡をかけ、長い前髪を横に流し、少しよれたスーツに身を包み。
おもむろに私たちのいる踊り場まで降りてきて、ついに正面に立った彼は。
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作者名：桜音風湊 | 作成日時：2018年4月26日 21時
