【wrwrd】彼方へ辿り着く為 (ページ12)

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Text.12 - Acatalepsy ページ12

気分は、大丈夫です。
それは良かった、騒がしくてすみませんね。
いえ……あの、ここは……？
医務室です。軍人でない方をお招きするのは初めてですが、安全は保障されてますのでご安心を。

そんな短い問答を繰り返して、

「……え？」

今ここ。
私の聞き間違いでなければ、確かにこの人は“軍人”と口にした。
黄褐色のベストに身を包んだいかにも理知的な風貌の男性が、淡々と、さも当たり前であるかのようにそう答えたのだ。それどころか、うっすら微笑みを湛えてすらいる。

「軍人というと、戦争とかでいうところの……？」
「そうです。群像の群ではなく軍隊の軍です」
「ちなみに戦争は現在進行形で？」
「はい。今の時間帯ですと……おそらくは、敵国の本隊とぶつかっている頃合いでしょうかね」

少しでも推測から遠ざかる返答を期待して質問を重ねてみたものの、結果としてより強固に事実が組み上がっただけだった。
私の生きてきた現代日本において、戦争とは数十年も前の出来事。
それが今現実に起こっていて、私はその渦中にいるという。

……誰が信じられようか？

一つ二つ上の世代が推し進めたゆとり教育なる方針のおかげで、ゆとり世代と呼ばれる身に置かれ、脱ゆとり教育の成された現在も消えることのない肩書きを持って生きてきた私が、今まさに戦時の日本にいると。
一体、誰が、理解出来るのか。すまないが、私には出来ない。

もしもこれがドッキリだとして、初対面の私に嘘をつくメリットがこの人にあるだろうか。
もし私が戦時中の日本にタイムスリップしたのだとして、なぜ五体満足に軍人御用達の医務室に保護されているのだろうか。

あるいは、これは胡蝶の夢だろうか。

「何かわからないことがあれば聞いてくださって結構ですよ」
「ここどこですか」
「あれ、さっき答えた気が……それはこの国に関する説明ということでしょうか」
「できれば世界情勢レベルでお願いします」

現状を飲み込めないこそばゆい焦燥感からか、マスターを相手にしている時のテンションがぽろっと表出してしまう。
見ず知らずの人に対して飛んだ失礼をと弁解しようとしたが、先生めっちゃ笑ってる。なんで。

「すみません、口振りが知り合いに似ていたもので……ふう、失礼致しました」

この様子なら、他の方々とも上手く馴染めそうですね。
口元に当てていた手で前髪を軽く梳きながら、先生が言う。

「……いや馴染むって何のこと……!?」