Text.11 - I live, and I woke up ページ11
初めに聞こえたのは、怒鳴り声。
遠くから微かに、憤激する男性の声が聞こえたのだ。
一体何に怒っているのだろう。
そんなささやかな疑問から、徐々に意識が覚醒していく。
「………っ」
瞳に張り付いた瞼を押し上げる。が、白光の眩しさですぐに閉じた。
瞼に焼き付いた光を数度瞬きすることで軽減する。光に慣れた頃、ようやく視界が機能した。
寝起きにダメージを与えた蛍光灯、それらをいくつもぶら下げた天井。
そして、私を中心にぐるりと四方を囲んでいるカーテン。
目に映った何もかもが、真っ白な無地で構成されていた。
「……びょういん……？」
喉が渇いているからか、風邪で痛めたような掠れた声が自分から発せられた。
上体を起こして正面を向くと、ぼんやりと影が見えた。誰かいる。
何やらペンを走らせているようだ。紙の上を滑る音が小気味いい。
外からは依然として男性の言い争う声が聞こえてくる。声の主は……二人、だろうか。
カーテンの向こうでカタリと音が鳴る。次にキャスターが転がる音。
突然のことに思わず息を飲んだが、人がいること自体はなんら不思議ではない。
ここを病院と仮定するなら、あの人影はおそらくこの部屋の主だろう。
……いや、病室に主がいるのはいささか不思議な話だ。
病室に人が常在しているのなら、むしろここは病院というより保健室なのではないか……？
考えている間に影は左に横切っていき、カーテンの波に流され、消える。
扉を開ける音がして、はっきりと聞こえなかった諍いが鮮明に耳に入った。
「すみませんがお二人共、あまり騒ぐと彼女が起きてしまいますよ」
しかし、ぴたりとやんだ。
凛として場を制した声に私まで圧されてしまう。
『彼女』と、恐らく私を指しているであろう三人称が出てきて急にびくびくし出した自分がいるのは、あまり自覚したくない。
争っていた当人達も、忠告に従ってか歯切れの悪い謝罪を残して渋々立ち去ったみたいだ。
なんだか気を遣わせてしまったみたいで申し訳ない。
扉を閉める音。
影が戻って来る。
「ひえっ」
「……驚かせてしまいましたか、気分はどうです？」
静かに前触れもなくカーテンを開いて、その人は私に問いかけた。
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作者名：桜音風湊 | 作成日時：2018年4月26日 21時
