Text.1 - Enemy in the box ページ1
無線の指示を掻き消すほどの大きな爆発。
すぐ近くで起こった破裂音に、耳鳴りがする。
今しがた無線で聞いたばかりの情報ーー敵戦車の砲撃といったところだ。
急いでその場を離れる。
砂の擦れる音が、地面を蹴るたび鼓膜を震わせる。
日常生活であれば気になるほどのものでもないが、ここ戦場とあってはそれも命取りになる。
素早く瓦礫の影に入り込み、砲撃のあった方角を見据える。
轟々とこちらへ接近してくる大型戦車。
キャタピラーは周りの瓦礫を物ともせず、むしろ踏み固めるようにこちらへ突っ込んでくる。
その後ろから侵攻してくる敵影も同時に確認して、砂塵に紛れながら横の路地に息を潜める。
ばれないよう反対側から大通りに抜けて、敵の背後に回り込むべく足を進める。
進行方向右の曲がり角から敵が顔を出した。
即座に互いを認識し、銃撃戦へと突入する。
相手は４人ほどの小隊らしく、散り散りに身を隠して順番に攻撃を仕掛けてくる。
こちらも車や建物を遮蔽物にしながらゆっくりと敵に近付いていく。
焦らず確実に仕留め、残すところあと一人……すると突如相手がこちらめがけて特攻してきた。
乱れ打ちにひやひやしながら狙うが、当たらない。
徐々に距離は縮まって……
さくり。
命のやり取りとは思えないほどあっけなく、ナイフが相手の肋骨の上を滑り心の臓へ達する。
目の前の人間が短く呻いて、やがてその場に倒れこむ。
感慨もなく亡骸の横を通り過ぎ、また次の目標へと銃を構える。
弾丸の雨をお見舞いすると、当然撃ち返される。
銃撃戦の末倒れたのは相手の方だったが、こちらも何発か食らってしまった。
視界がじんわりと赤くなり、前が見づらい。
一度身を隠さなければと目に入った外階段を駆け上がり、扉も窓も無い開放感ある室内に侵入する。
応急処置をしたらすぐに移動しよう……と考えたのもつかの間、ナイフの切り裂き音と呻き声が同時に聞こえて頭が真っ白にーーーー
「おはよう」
「っ‼︎あ、お……おはようございます」
扉の開く音に驚いて振り返ると、廊下に佇んだ管理人さんが苦笑いを浮かべていたので、半ば反射的に挨拶を交わす。
あれ、もしや今は。
「ずっと起きてたのね、まったく」
「すみません、つい」
「ほんと飽きないねー……でもやりすぎは身体に悪いからね？ちょうど終わったみたいだし、朝ご飯にしましょう」
モノクロの画面に映し出された『Your dead』の文字を確認した管理人さんが微笑む。
「はい、すぐ行きます」
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作者名：桜音風湊 | 作成日時：2018年4月26日 21時
