【wrwrd!】 Love*Attack!! 【短編】

紳士は遅れて現れる / *eml ページ46

「な? ごめんて、頼むから機嫌直して」

「……別に、機嫌悪くないです……」

「いやいや、悪いやんか。怒涛の悪さやんか。本真、申し訳ない」



腹が立つ。
一昨日からこの恋人に腹が立っていたのだが、これだけ謝られては、聞き分けのなさすぎる自分にその対象が移ってきた。
しかも、彼が謝る必要はないのだ。
仕事が入ったらそれをこなすのは、社会人なら当然のこと。そして仕事には、ホワイトデーも何も関係ない。時に無慈悲にその日に業務が舞い込んだなら、仕上げるのが義務だ。そう、泊まり込んででも。

ひとりで過ごす晩は寂しいけれど、数日なら我慢できる。
ホワイトデーも、そんなに豪華な返礼を期待していた訳ではない。
寧ろそういうのに無頓着そうなこの教授のことだから忘れているかも、まあそれもまた一興だ、くらいの心持ちでいた。
――それでも腹が立ったのは、学内の対象者にはしっかりお返しを渡していた、という点にだろうか。

そりゃホワイトデーに大学にいたんだからそれもまた仕方ないことなのだろうが、覚えていたのなら恋人である私が一番に受け取りたかった、というよくわからないこだわりと乙女心が炸裂してしまっている。


正直、自分から見ても自分がかなり面倒くさくて。自分から見てそうということは、彼から見ても絶対そうということで、これ以上その面倒くさい部分が露呈するのが嫌だった。
どうせ数時間もしたら落ち着いているんだから。



「――すみません、ちょっと、放っといてください」



そういう意味も含めて言い捨てる。できるだけ抑揚なく言ったつもりが、少し声が尖ってしまった気がしてまた自己嫌悪が深くなる。
……しかし彼は、傍から離れる気配を見せない。
それどころか一息吸うと、こう言い放ったのだ。


「……それは、困るんよ。時間が、」

「は……?」

「……Aへのお返しはディナーにしようって、最初から思っとったんやけど。
そのレストランの予約の時間が、もうそろそろ出ないと間に合わんの」


その言葉にガバッと顔を上げる。
陳腐な箱物とは比べ物にならない、きっと、“恋人にだけ”の返礼内容。



「――エスコートさせてくれへんの?」



久しぶりに目が合うと、懇願するような表情で見つめられて。
もう、臍を曲げ続ける理由もなく。



「……着替えてきます」



ぶっきらぼうな私の言葉に、エミさんが嬉しそうに笑った。
42時間遅れのホワイトデーは、きっと人生一幸せなものになるだろう。






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