今日は何さんですか？【川西太一】

東堂さん ページ21

「……いいの？」

「え、勿論……？」



一瞬訪れた静寂の後、ぽつっとAさんが言葉を発した。

自身のやり方が少し大雑把というか、乱雑だったというか。とにかくスマートでも適切でもない行動だったのは自覚している。

でも、そんなに改まって聞かれると寧ろ困ってしまった。



「彼女さんに、怒られない？」

「…………………………………………は？」



待って待って待って？めっちゃ間を空けてしまったが、頼むつっこませてくれ。

ごめん、いきなりシリアスぶっ壊すけど、今よくわらかない単語が聞こえたよ？ “ 彼女 ” って言った？気のせい、気のせいですか？耳鼻科行くべきかな。

……いや、なんのことっすか。



「……俺、彼女なんていないけど」

「え⁉ 」

「寧ろなんでいる前提？」

「……前、白布に聞いたら『あいつ、好きな奴いるよ』って言うから」



……一つ、言わせてくれ。

お前かよっ！白布お前かよ！！俺が悩みに悩んだ結果、相談した相手のお前が事の発端か！てか何言ってくれてんだ。俺の秘めたる(あんまり秘められてない)恋心なんだと思ってんだ！

……と、まぁ心の中は大荒れだが、ポーカーフェイス(といえば聞こえはいいが、要するに無表情)な俺は冷静を装って言葉を選ぶ。



「もう一回言うけど、俺今彼女はいない。第一 “ 好きな奴がいる＝彼女 ” だとは決まってないじゃん……いや、そうだったら嬉しいけど」

「あ……好きな人説は本当なんだ」



ごめん気付いて、君なんです。



「まぁ、うん……てかAさんが今まで俺に忘れ物借りに来なかったのって、それが理由？」

「理由ってほど大それたものじゃないけど……なんか彼女さんいたらわるいかなぁって」

「……いないので、これからは存分に借りに来てください」



……さて、この後どうしよう。

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