同じ【HQ短編集】

花巻貴大 ページ29

廊下を歩いていたら、去年クラスが同じだったAに会った。

その子の手には小さな紙袋。多分今日(・・)だから、まぁ中身は嫌でも予想がつく。


「おーい」

「あれ、花巻だ」

「それ誰宛？」


彼女が持ってる紙袋を指差しながら聞くと、「あー……友達宛？」と歯切れ悪く呟かれた。


「なんで疑問形？」

「……あげようとしてた奴に、渡せなかったというか。他の物はあげれたんだけど」


Aは誰にとは言わなかったけど、これもまた、なんとなく察しがついた。「あいつ、他から結構貰ってるし」と続けられたあたり、もう確定。

この子も大分素直じゃないからなぁ。

ちらっと彼女の手の袋に目をやれば、中にはラッピングされた可愛い小さな箱。まぁチョコだよな、やっぱ。


「それどーすんの？」

「渡せなかったし、自分で食べよっかなって」

「うっわ女子としてそれどーよ」

「うるさいな……そう言う花巻君は１つくらい貰えたんですかぁ？」

「腹立つなお前……いいんだよ俺は。本命からしか受け取らない主義なんですー」


そう言うとAは「おー、男前」と真顔で言う。まったくもって興味がなさそうだ。

そしてまた「んー、本当にどうしよう」と言いながら自身の手元の袋を見るA……あぁ、俺の意気地なさも大概だ。


「……俺、貰ってやろうか？」

「え、本命からしか貰わない主義じゃないの？」

「……あーまぁ、妥協した結果だ」

「何それ、私のおまけ感やばい」

「いいだろ、どーせそれ渡すようで作ったんだから。自分で食うよりはマシだろ」


こんな、最後の悪あがき。

本命からしか貰わない、まさに今実行中。でも俺にはそれを伝える勇気はない。


「んー……まぁ、花巻がこれでいいなら」

「まじかーサンキュー」


Aはそういう意味で俺に興味を持ってない。彼女の視線の先はいつもあいつ(及川)だから。

だからきっとAは知らない。自分が俺の言う本命、だなんて。でもまぁ、今更気付いてもらいたいなんて思ってない。

好きな子の邪魔はしたくない派だしな。


「……」


同じチョコでも、渡す相手によって込められる気持ちは全く変わってくる。

それがプラスかマイナスか


「花巻？」

「いや、なんでもないわ」


俺の場合、間違いなくそれは後者だ。

苦い苦い、俺の青春、片思い。

だからせめて、貰ったチョコだけでも甘くあってほしいと願う。

福永招平→←及川徹

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す