同じ【HQ短編集】

二口堅治 ページ15

前に１人だけ


『ねー、堅治』

『何？A』


“ 彼女 ” と呼べる相手がいた。

チャラいとか言われたり、遊んでそうとか思われてたりする俺だけど、実際のところそうではなくて。

過去にいた彼女はたった１人、Aだけ。

だから、俺なりに大切にしていたつもりだった。

なのに


『ねぇ……別れよっか』


なんの脈略もなく、別れを切り出されて。

死ぬほど別れたくなかったけど、まだガキだったから、縋るようでかっこ悪く思えて。

変なプライドが勝り


『……ああ、いいよ。清々するわ」


なんて、思ってもない事を言ってしまった。

それなのに、まだ好きなんて我ながら呆れる。


「はじめまして！」


そんな中、部活に入ってきたマネージャー。

明るい声で自己紹介をするそいつは


「Aです、よろしくお願いします」


“ A ” 、そう名乗った。

あいつ(元カノ)と同じ名前で、聞いた瞬間思わず肩が揺れた。

苗字も

髪型も

背丈も

俺との関係も

何もかも、あいつとは違うのに。

ただ名前が同じだけなのに、酷く印象に残る奴。


「……なぁ」

「あ、えーっと……二口君だっけ？」

「おう」


だから、こんなの変なんだろう。

恋なんかとは程遠く、縁もゆかりもない感情。

卑怯なんなて言われても文句は言えない。


「…… “ A ” って呼んでいい？」


なのに俺は

あいつ(元カノ)とこいつを

重ねてしまった。

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