これが恋ではないのなら、【国見英】

《７》 ページ14

まあだからといって俺から水瀬にコンタクトを取ったわけではない。

知らない奴にいきなり話しかけるのなんて面倒くさいし、前提として水瀬がAを知っているか定かじゃない。同窓生でも知らない奴なんていたって不思議じゃない、仮に知らなかったら俺が恥かくだけ。

てか第一に「あいつのこと知ってる？」って言ってその後どうすんだよ。そいつの事好きなんですアピールして終了じゃねえかよ馬鹿らしい。

……とまあ御託を並べて、要するに面倒くさかったので雨丸中という文字は見なかったことにした。

結論、俺から歩み寄りはしなかった。



『なあ、お前が国見だよな』

『……うん、誰？』

『俺？水瀬』



俺から(・・・)は。

その頃塾でクラス替えがあった。というか成績順に再編成されたという表現の方が正しい。

そこで知らない奴に話しかけられた。そいつが水瀬だったのだ。

水瀬と名乗られた瞬間、少し前に見た成績表を思い出す。水瀬という名前の横に書かれた学校名、あいつと同じの。



(……こいつが水瀬、か)



名前しか知らなかった存在は、本人の自己紹介で顔と共に俺の中にインプットされた。

サッカーか何かやってそうな、いかにもスポーツ男子という印象を受ける。はっきりとした顔立ちで割と目立つタイプだなってこっそり思った。



『何か用？』

『いや特に。よろしくなって挨拶？』

『……ん、よろしく』



塾なんていろんな学校の生徒が集まっているわけで、その中で他校の奴に声をかけれる水瀬は普通にすごいと思う。

俺は御免だ、なんでそんな面倒を買わなければいけない？願い下げだ。

まあそんな諸事情はいいとしよう。



『てかなんで俺知ってんの？』

『いや俺もさっき初めて知ったよ、お前の顔。名前は知ってたけどな』

『……なんで？』

『だってお前、テストとかいつも上位だろ。あんだけ名前張り出されてんの見れば嫌でも覚えるわ』

『そうでもなくね？』

『俺なんかたまに載ればラッキーだっての。まああとは学校の奴に聞いたからかな』

『は？』

『橋下A。お前あいつと小学校一緒なんだろ？この前たまたまその話ししてさ。国見って俺知ってる奴だなって』



急に出てきたあいつの名前。

動揺しても仕方ないだろう。

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