これが恋ではないのなら、【国見英】

《２８》 ページ35

「……もういい、もういいよ。本当に嫌だったんだね、ごめん……」

「なあ、本当に何の話してんだよ」

「もうわかったってば」

「……聞けよっ！」

「嫌だっ！」



なんで、こうなるんだよ。

よくわかんねえ先輩追い払って、やっと話せると思ったらA帰ろうとしてるし。呼び止めたらやっぱり誤解されてるし。



「……ほっといて、お願い……」



また、泣かせるし。

確かに客観視すれば、あの状況はある意味でお膳立てされすぎていたのだ。アイツからすれば意味もなく呼び出されて、意味のわからない告白シーンを見せられて。



『……すいません、俺、好きな奴いるんです』



言えない、今更。言う権利も本当はない。

こんなに傷つけたくせに「お前が好きなんだ」なんて。

本当は大好きなのに。姿が見えるだけで嬉しいくらい好きなのに。名前呼ぶだけでも胸が苦しくなるくらい本気なのに。結局傷つけて全部終わってる。

好き、のたった２文字を言うだけが、どうしてこんなに難しいんだ。



「……A」



口から溢れたあいつの名前が、あいつの名前を呼ぶ自分の声が、酷く情けなくて。それが助長して、本当に一生このままな気がしてきて。

……拗らせすぎだろ、俺。






・








ピリリリリリリリ！


「……？」


そんな最低な始まりをした一日の終わり頃。不意にスマホが着信を告げた。着信ってか電話だな、珍しい。普段メールとかそこらばっかりなのに。

そんな呑気な発想で、何ともなしにディスプレイの表示を目にして。



「……は、」



『水瀬』、無機質な文字が何かを告げる。

生憎と俺の知り合いに水瀬なんて奴は一人しかいない。中学のあの日の水瀬しか。

でもなんで今更？ずっと音信不通で、あれ以来会うことすらなかったのに。



ピリリリリリ！



尚も鳴り続ける着信音が、止まりっぱなしの “ あの日 ” を無理矢理にでも動かそうとしているような、そんな気がしてならなかった。

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