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――「それで、近日中に例の有碍書が届くと」
その日の夜、咎は司書室にて黒電話片手に難しそうな表情を浮かべていた。
一方、咎の助手である作之助は現在、Aのいる食堂にて食器洗いの手伝いをしていた。
「にしても、Aちゃんって絶対関東の人間やろ。味付け濃すぎるわぁ」
「濃い味付けでごめんなさいね」
「いやそこまでは言うとらんけどさ、濃い味で許されんのはカレーだけやでって教えとくわ」
Aが手際よく食器を洗い終えると同時に作之助がその食器をささっと拭いて棚に並べる。明日の食器洗いの担当は度重なるほぼ意味の無いくじ引きの結果秋声になった。
「おっしょはんも大変やろなぁ、男だらけの職場に我が子おくなんて……ワシやったらぜーーったい断るけどなぁ。しかもこんな所で出会ったから言うて相手全員一回死んどるし戸籍の存在すら危うい」
「なにいってるんですか……ほら、仕事終わりましたよ。戻りましょ」
作之助の戯言を半分無視して、Aは食堂の電灯を消す。そして中に誰もいないのを確認して食堂の施錠を行い終えると、向こうの廊下から咎が歩いてくるのが見えた。
「あっ、おっしょはーん! お仕事お疲れです」
「作之助さんこそお疲れ様。……A、あちらに秋声くんがいる。部屋まで送ってもらえ。作之助くんは今から話したいことがあるのでこちらへついておいで」
「了解でーす、Aちゃん、おやすみー!」
部屋まで一人で行けるのに。Aは秋声と話す話題を今からでも探そうと頭を回転させながら秋声の待つ場所へ歩き出した。
「んでどうしたんです?」
「明日、政府から有碍書が届く。その編成について話したいことがあるんだが……」
「なるほどぉ、そんならば今からでも潜書して戦力集めてきましょか」
「話が早くて助かった……すまない作之助くん、大変だとは思うが頼んだ」
深々と頭を下げる咎を目の前に作之助は励ますようにして自らの胸を叩き、任せろと宣言した。
「徹夜しようがなにしようが、ワシにはこのお薬もありますんで!」
「……それはちょっと…………」
更なるフォローをと思い取り出した薬に咎は一瞬苦笑した。織田作之助。彼は恐ろしい男である。
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作者名:逆さ天然水 | 作成日時:2017年7月23日 9時