【文アル】言の葉を託せば (ページ8)

今日:5 hit、昨日:2 hit、合計:4,481 hit

7 ページ8

Aは洗濯物を干し終え、額に僅かに浮き出た汗を手で拭うと、早足で図書館へ戻った。
｢あ、おかえり｣
｢……作之助さん、何食べてるんですか？｣
｢食べてるも何も、ただの饅頭やけど……Aちゃんも食うか？｣
図書館中央部に設置してあるソファで胡座をかいている作之助。手には緑色の饅頭を持っている。食堂に饅頭なんかあったかしら、Aは顎に手を置いて考え始めた。
｢さっき政府のほうから宅配便きてさ、米とか野菜とかの他に饅頭がたくさん来てたから食っててん｣
｢そうなんですか……｣
｢おん…………て、あれ誰｣
そういって作之助はAの背後を指さした。Aはその指の方向を向くと、そこには父と、見知らぬ男が隣にいた。また男？
｢お前の親父さんはあれなんか、男色的な｣
｢そんなわけないじゃないですか！｣
男は秋声や作之助と違い、浮世離れした髪色をしていた。銀に輝く頭髪は上質な糸を一本一本縫い込んだようにさらりと靡いている。足も長く、顔もどこか異国風だ。外国の人だろうか。Aは父の名を叫びながら父のもとへ近付く。
｢お父様、そちらは誰でしょう｣
｢ああ、こちらは小泉八雲くんだ。……私の娘です、世間知らずな奴ですが宜しくお願いします｣
｢オー司書殿！娘さんがいたのデスね、ヨロシクお願いします。お名前を伺っても宜しいデスカ？｣
小泉八雲。本名ラフカディオ・ハーン。怪談の名を世界に広めた張本人。こんな有名人まで転生に応じるのか。Aは驚きの顔で八雲を見つめ続けた。そしてやっとのことで我に返るとAは自分の名を教え八雲に頭を下げた。
｢んでんで、こちらのハンサムが織田作之助って言うんやけど……って、聞いてへんし！｣
作之助もAに続いて自己紹介をしようと試みたが、こちらに関しては誰からの関心も寄せなかった。