1・たまたま私達は出逢った ページ1
キチッとスーツを着こなした先生が私達に向かって言葉を発する。
その言葉ひとつひとつは新しい学校生活にウキウキと弾んでいる私達の耳を
言霊となって通り過ぎていく。
受験シーズンも終わって、桜の木が街の中で陽の光に暖かく包まれながら、
去年の夏頃からずっと準備してきた蕾を一斉に開花させた。
風に吹かれ散って行く花びらがその風に乗って舞い上がる。
受験と言う名の壁を乗り越えた少年少女達をこれでもかという位に祝福しているみたい。
でも、受験に失敗した人達からしたらどうなんだろうか。
舞い上がる桜なんて逆に見たくもないのではないか。
あくまで勝手な妄想の中の考えではあるけど。
でも、少なくとも自分はそうだった。
受験シーズンに差し掛かると母は毎日毎日私に付き添ってくれた。
お母さんの握ってくれたおにぎりはほかほかで美味しかった。
母が掛けてくれた言葉はとても暖かかった。
だから自分は必死に頑張った。
どうにかして母の期待に応えないと、と思った。
……それなのに、受験には失敗した。
公立の受験に失敗したという事は、行くべき先は自然と私学に決定する。
また、母に迷惑をかけてしまう。
受験後何日かはそんな自分がやるせなくて自室にこもって泣いた。
泣きじゃくった目が真っ赤に腫れた。
「では、先生からは以上です」
担任はそう言うと号令をかけた。
初日は大抵こんなもんだ。
中身が全くない。
まるでウエハースの様だ。
そんなつまらない事を考えながら、誰とも話さずに下校したのが
約10ヶ月ほど前の事。
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