切れない藍色のシャッター ページ11
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スマートフォンが手元にあれば、迷いなくカメラを起動したかもしれない。一瞬の時を収めるカメラを、あんなに小さくてコンパクトな機械の中に埋め込んで、好きなときにそれを構えられるというのは、一昔前からすればあり得ないことだったのだろう。便利な時代に生まれたものだ、と何故だか達観したような感情を抱く。
幕末に写真を撮るには、長い期間じっとしていなければいけなかった、と聞いた。歴史の授業だったか、本で読んだのかは忘れてしまったが、坂本龍馬の写真を見ながらああこの人はこんなポーズをずっと取っていたのか、大変だなあと思った覚えがある。今が幕末でも、私は先生のこの姿を写真に残すためなら努力を惜しまなかったかもしれない。先生は何も言わずともじっとしてくれているのだから、シャッターチャンスは今だ。
少し美術室を覗いて自分のスマートフォンだけでも取り戻そうかとも考えたが、今美術室へ行ったらきっと荒波に揉まれてここに戻って来られなくなる。それはやめておこう。道具があっても、被写体が居ないのならば意味はない。それならばいっそ、物体として手元に残らなくても良いから、記憶という曖昧なものに頼りたい。心の中でカメラを構えて、シャッターを切るように、深く深く記憶に残るように、私は瞬きさえ惜しむほど先生を見つめた。
白雪姫の王子様。現代ではキスをして姫を目覚めさせた英雄であるが、原作はそうもいかない。姫に惚れた王子は、死体でも良いからと、生気の無い姫を持ち去ろうとしたのである。王子は死体愛好家だったと言っても過言では無い、けれど。私は今なら、この王子様に賛同出来る。このまま、先生の鼓動が止まっても、心臓が機能しなくなっても、更に冷たくなっても、硬直が始まっても。私は先生を愛しているのだ、と思う。愛の強さは時に異常だ。王子様が心から姫を愛してしまったのなら、死体でも良いから姫を自分の物にしたいという気持ちは分からなくはない。
ああ、私は彼を好きなんだ、と今更のようにその事実が記憶に刻まれる。私が刻みたいのはそんな事実ではない、先生の美しい御尊顔なのに、と悲痛に思う。脳内のシャッターは切れなかった。
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鑑 涙栖(プロフ) - luna???さん» ありがとうございます……！何と表して良いか分からないくらい嬉しいです、文面へ普通ですがとても興奮しております。更新頑張りますのでこれからもよろしくお願いします。 (2019年2月17日 7時) (
レス) id: 3eec8abc69 (このIDを非表示/違反報告)
luna???(プロフ) - 作品とても面白くて毎日、更新されたか見に来てる位本当に好きです笑また更新待ってます！ (2019年2月16日 23時) (レス) id: 654049e628 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鑑涙栖 | 作成日時：2019年2月14日 16時
