朗読 ページ8
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「『……私は希望を唇に嚙みつぶして』」
季節に合わない夏の詩を、柊だけに聞こえるような細い声で独唱する。いや、それは暗唱であった。少女は詩集を見ていながらも、文字を追ってはいなかった。うっとりするような、憧憬を感じる瞳で見つめているのみであった。柊は目線こそ少女へ向けていなかったが、耳は奪われたも同然である。小鳥の鳴くような、そんな美しい声ではないにしろ、心を掴まれるような声。
「『私はギロギロする目で諦めていた……』」
声を落とした。何か、思い出したように。それに気付いてはいるものの、彼は声を掛けなかった。まだ終わっていない。
「『噫、生きてゐた、私は生きてゐた！』」
心の底から絞り出すような、苦しい声だった。それは演技なのかもしれない。感情を込めて読む、それがどういうことかを少女は心得ていた。あまりに美術室が閑静なために、ふぅ、と息を吐く音さえ鮮明に聞こえる。少女は好きな詩を詠み上げたことに満足感を得ていた。それが誰に聞かれていようと、――誰にも聞かれていなくても、――少女はただただ誇らしげに詩集を見つめるだけだろう。少女にとって観客は関係ない。自分が満足するか、それだけなのである。詩集の表紙の、詩人の顔が少女を見つめる。現代の所謂プリクラで撮ったように、またはスマートフォンで加工したかのように大きく澄んだ瞳。少女はその瞳が好きだった。
「へへ、先生ありがとうございます。興味がないのに聞いてくださって。私、死ぬときはこの詩を口ずさんで死にたい。『生きてゐた！』自信を持ってそう言える……そんな人生ならどんなに良かったか…………と思います」
少女の脳裏によぎったものは、もはや簡明であった。柊は思考回路を繋ぐ。彼女が――景山が死んだとき、彼女は「生きてゐた」と、そう、言えたであろうか。もう聞くことは叶わない。きっと、柊も同じことを考えている、少女は根拠もなくそれを信じた。そして少女は後悔した。
「……A。クラスメイトの中で悪口、陰口、気分が悪くなるような言葉以外を、最後に景山に伝えた相手は誰だか知ってるか？」
知らない、としか答えようがない。少女にとっては景山など、「水泳がすごい人」としか記憶されていなかったのだから。やはり、少女は後悔せざるを得なかった。沈黙が訪れる。
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文字間隔をいじったり、誤字脱字訂正したり、細かい変更は随時行っておりますが作品の内容は変更していないので気にせずお読みください。
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鑑 涙栖(プロフ) - ゆうさん» 閲覧、コメントありがとうございます！ ドラマ沿いにすると夢主の台詞をどう会話に突っ込んでいいか分からないのでこのような形になっています(笑)風変わりなものを書いていると思いますが、こうしてコメントをいただけるととても嬉しいです (2019年2月15日 16時) (
レス) id: 3eec8abc69 (このIDを非表示/違反報告)
ゆう - 初めてコメントします。ドラマ沿いの小説が多いなか、少し違った視点、角度からの小説だったので新鮮でした。 (2019年2月14日 23時) (レス) id: b0c7457ca7 (このIDを非表示/違反報告)
鑑 涙栖(プロフ) - のあさん» 閲覧、コメントありがとうございます。陳腐だなんて滅相もない、その言葉だけで私は随分救われてます。ありがとうございます(笑)偏人三面相のほうも読んでくださってるんですか……！あちらも更新頑張りますのでよろしくお願いします。 (2019年2月3日 17時) (レス) id: 3eec8abc69 (このIDを非表示/違反報告)
のあ - 、初めまして。本当に本を手に取って読んでいるような感覚でした。陳腐な言葉ですが、とても面白かったかったです。素敵な小説をありがとございました。偏人三面相の方も楽しみにしています！ (2019年2月3日 17時) (レス) id: 30887f6f4e (このIDを非表示/違反報告)
鑑 泪栖(プロフ) - りょうさん» 楽しんでいただけたようで幸いです！ コメントもありがとうございました！ 作中作の構成や、冒頭部分を最後にもう一度持ってくるのが好きなのでこのような構成になりました(笑) (2019年2月1日 16時) (レス) id: 3eec8abc69 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鑑涙栖 | 作成日時：2019年1月24日 21時
