満足 ページ4
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少女は柊の顔から目を逸らしたまま戻らない。先程までの威勢はどうしたのか、えっとお、と呟いては肝心なことを言おうとしない。少し紅潮した頬の所為で、まるで愛の告白をしているようにも見えなくはない。少女はちらりと柊に視線を動かす、陶器のように白く透明感のある肌に、「これは完全に私の負けだ」だなんてどうでも良いことを考えてながら。眉目秀麗。ぱっとその言葉が頭に浮かんで、また消えた。
「あ、それなら私の鞄を持ってきてくださいよ。私が目的の物を取りますので、それが先生にとっての『安全なもの』かは、よく見て先生が判断してくださいな」
携帯電話で人を殺すのは難しいだろう。携帯電話を人殺し装置の一部に使うのならまだしも、携帯電話一つで実行するのは無理だ。そういう意味では、携帯電話は「安全なもの」だ。しかし、今の柊にとって携帯電話が「安全なもの」と言えるかは分からない。それ故、回りくどいような表現になってしまった。そんなに言い出しづらい物を返せと注文するのか、と疑問半分疑惑半分、という表情をする柊。お願いします、と両手を胸の前で合わせる少女。少女は小遣いを強請る子どものように、ちょっとくらい良いでしょ、と思いながらも懸命に祈った。その祈りが届いたのかはいざ知らず、待ってろ、と一言残して柊は扉の奥へ引っ込んだ。
少女は安心していた。鞄を返す――正しくは鞄の中の目的の物を返す――、それを彼が実行してくれるか否かは少女にとっては死活問題だったのだ。少女に、もう少しクラスメイトへの意識が――友人を作ろうという意識があったのなら、ここまでの死活問題にはならなかっただろう。しかし、少女に友人と呼べるような人間はもはやいなかった。いや、最初からいないのである。そもそも、少女には誰かと馴れ合おうという気持ちすらなかった。それ故、彼が「人質になってもらう」まがいのことを宣言したときには、少女は本気で柊を恨んだ。殺してやろうかとも思ったが、相手は爆弾を所持している。反抗できるはずもないのでこうして直談判へ乗り込んだのである。結果、それが上手くいきそうだということに、少女は満足していた。
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鑑 涙栖(プロフ) - ゆうさん» 閲覧、コメントありがとうございます！ ドラマ沿いにすると夢主の台詞をどう会話に突っ込んでいいか分からないのでこのような形になっています(笑)風変わりなものを書いていると思いますが、こうしてコメントをいただけるととても嬉しいです (2019年2月15日 16時) (
レス) id: 3eec8abc69 (このIDを非表示/違反報告)
ゆう - 初めてコメントします。ドラマ沿いの小説が多いなか、少し違った視点、角度からの小説だったので新鮮でした。 (2019年2月14日 23時) (レス) id: b0c7457ca7 (このIDを非表示/違反報告)
鑑 涙栖(プロフ) - のあさん» 閲覧、コメントありがとうございます。陳腐だなんて滅相もない、その言葉だけで私は随分救われてます。ありがとうございます(笑)偏人三面相のほうも読んでくださってるんですか……！あちらも更新頑張りますのでよろしくお願いします。 (2019年2月3日 17時) (レス) id: 3eec8abc69 (このIDを非表示/違反報告)
のあ - 、初めまして。本当に本を手に取って読んでいるような感覚でした。陳腐な言葉ですが、とても面白かったかったです。素敵な小説をありがとございました。偏人三面相の方も楽しみにしています！ (2019年2月3日 17時) (レス) id: 30887f6f4e (このIDを非表示/違反報告)
鑑 泪栖(プロフ) - りょうさん» 楽しんでいただけたようで幸いです！ コメントもありがとうございました！ 作中作の構成や、冒頭部分を最後にもう一度持ってくるのが好きなのでこのような構成になりました(笑) (2019年2月1日 16時) (レス) id: 3eec8abc69 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鑑涙栖 | 作成日時：2019年1月24日 21時
