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「おはよう。」
行き慣れた病院、伝え慣れた要件、ノックし慣れたドア、見慣れた君の眠る顔。
ねえ、今日も目を覚ましてはくれないんだね。


横たわる彼女の右手に光る指輪をそっとなぞる。

付き合って3年目のプレゼントだった。悩みに悩んで、予行練習も兼ねたペアリング。
「ありがとう、嬉しい!」
と無邪気に笑って頬を赤く染めた光景が目に浮かぶ。


「A、昨日は来れなくてごめん。最近は次のライブの構成考えてるんだよ。今度もまた新しいことにチャレンジしようってなって…あ、そうだ。皆がまたAに会いたがってたよ。だから今度連れてくるね。」

広すぎる部屋に自分の声だけが響いた。無機質に一定のリズムで鳴る音がレスポンスのない寂しさをより一層際立てる。



「ねえ、Aが寝てるうちに春になっちゃったよ。俺、今年はAとお花見できないのかな。Aの家の方の桜なんかはもう満開だよ。」


話しながら窓を開けると心地よい春風が流れてくる。中庭の桜の木に目をやりながら右手を伸ばす。薬指にあるAと同じ指輪がキラリと光った。


「俺さ、もう何回も練習したんだよ。指輪だって、もうドジしないし、一緒に住む家もちょっと探したりして。Aには真っ白なドレス着てもらいたいな。大勢じゃなくていいから、俺らの幸せなとこ見てもらうの。絶対佑亮は大号泣だろうなぁ〜…つられて皆泣いちゃったりして。」
舞い上がる桜の花びらを目で追いかけながらつぶやく。


思い出せば、このペアリングを渡したときは緊張しすぎて箱が上下逆だった。まさか指輪を忘れるなんてと焦る俺に笑いながら上下逆だよと言って笑ってくれた。

今はお互い一人暮らしだけど近いうちに一緒に住もうねって一緒に不動産に行ったこともあった。

Yellの撮影でタキシードを着た俺にちょっと悔しそうにしたAと式場の見学にも行った。
「ここで、愛を誓うんだね。…なんか恥ずかしい。」
なんて顔を真っ赤にしてうつむいたAの横顔。あの横顔を見て、Aを一生幸せにしてあげたいと本気で思った。




全部全部、昨日のことのように思い出せるAとの思い出に、何度どうして今こうやって眠っているのがAなんだと思う。





「ねえ、A…すきだよ。」
ぼそりと呟いた瞬間、桜の花びらを連れて突風が吹く。まるでAが返事をしてくれたかのように。

でもAからの返事はまだ、返ってこない。

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君が春風とともに帰ってくるのは、まだ先のお話

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設定タグ:超特急 , 短編   
作品ジャンル:恋愛
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なるせ(プロフ) - すけさん» ありがとうございます(;;)励みになります! (2018年10月4日 22時) (レス) id: a45752a8c7 (このIDを非表示/違反報告)
すけ - 全部面白いです!! 更新待ってます!! (2018年10月3日 21時) (レス) id: 315a3c6654 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:なるせ | 作成日時:2018年8月25日 5時

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