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「A、来たで。」

「太陽。いらっしゃい。」

静かな病室に花が咲いたようにAの笑顔が色をつけた。どこまでも白一色で頭がおかしくなりそうな部屋にこの前切ってもらったという栗色の髪が揺れる。

「今日はAが好きなプリン買ってきたんよ。お腹すいとる?」
「わざわざありがとう。ここのプリン大好き!」

サイドテーブルにお菓子屋さんの箱を置くとAはよいしょ、と言いながら起き上がる。2ヶ月も外に出ていないAの身体はどこかまたやせ細って、小さくなっているような気がした。

「太陽は最近どう?年末にツアーもあるんでしょ」
「んー、ぼちぼちかな。レッスンも始まってんけど、これからって感じ。でもむっちゃ楽しみやねん。」
「太陽が頑張ってるから、わたしも頑張んなきゃね。」
「Aは十分頑張ってるやん。あんま無理したらあかんで?」

そう言って頭をぽんぽんとするとふふ、と手で口元を隠す。つい2ヶ月前まで俺らは病院とは無縁の関係を送っていたし、全く足を動かさないAを見て今でもどんな顔をしたらいいか分からなくなる。


居眠り運転で、たまたま交差点を歩いていたAが跳ねられた。仕事が終わって、俺の家に向かう途中だったらしい。迎えに行ったらよかったとか、俺がAの家に行ったらよかったとか、考えてもどうしようもないことを何回も考えた。でも当の本人は落ち着いていて俺の前で泣かなかったし、これから先何ヶ月と始まる過酷なリハビリをすっと受け入れていた。

「今度のフェス、行けなくなっちゃったなぁ……」

なんて苦笑したAに、どんな声をかけたらいいのか分からなかった。今でもその正解は分からない。



「そういえばこの前吉野くんから連絡があってね、今度来てくれるって。」
「おん、晃一から聞いたで。週末かな?一緒に行く約束してん。」
「ライブ以外で会うのすっごく久しぶりかも……みんな元気?」
「相変わらず元気やで。」
「そっかそっか…よかった。」
「このあとは、お仕事?」
「おん。撮影なんよ。」
「じゃあ、わたしもリハビリ頑張ろっと」
「お互い頑張ろな。」

そう言うとAがどこか寂しそうな顔をしていた。本当はずっと一緒にいたいけど、そうはいかない。思わずAの肩を抱いた。

「せやから、頑張る前にA補充やな〜」

そう言って頭をなでているとAの腕が背中に回ってくる。恥ずかしそうにしているけど、どこか回された腕は力強かった。

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設定タグ:超特急 , 短編   
作品ジャンル:恋愛
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なるせ(プロフ) - すけさん» ありがとうございます(;;)励みになります! (2018年10月4日 22時) (レス) id: a45752a8c7 (このIDを非表示/違反報告)
すけ - 全部面白いです!! 更新待ってます!! (2018年10月3日 21時) (レス) id: 315a3c6654 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:なるせ | 作成日時:2018年8月25日 5時

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