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「お前は」
「?」
「音大、行くの?」
ずっと悩んでいたことを指摘されて、肩が揺れた。どうしよう、なんて答えればいいのだろうか。今更頑張ったところで、他の受験生との差は埋まらない。音大に行くとしたら来年になるかもしれないのだ。そんな格好悪いこと、横の人に告げたくない。
「わたし、は」
音楽が好きだ。でも今はその気力がない。お金も足りない。
五条くんにはなんと言おう。
言葉は途切れたまま宙に消える。すると五条くんは次の言葉を待たずに、言った。
「…お前まで、いなくなんのかよ」
「……え?」
「いくなよ。音楽とかどうでもいい。ずっと高専で、術師でも補助監督でも、ここにいればいいだろ」
信じられない発言だった。五条くんに引き止められた。他の誰でもない、私とは生きる世界が違う、神様みたいな人に。片想いの相手に。
お互い相手を恋愛対象として見ている自覚が、お互いにある。でもこんな風にわかりやすくその事実を明るみに出ることは、これが初めてだった。
「…ごじょ、くん」
「……なんてな、冗談。お前の好きにしろよ」
なんてことない顔ではぐらかされた。平気なはずはないのに。夏油くんが居なくなって、独りにさせられたのは彼だけでは無い。むしろ被害者は五条くんだ。信用し信頼していたのに、裏切られたのだから。
でも多分、裏切られたなんて思ってないんだろう。それが彼の美徳。五条悟故の、私達にはない感覚。被害者意識という概念を持ち合わせていない。全部、自分で背負う。義務も責任も、全て。
「(…もし仮に私が、高専に残ったら、そしたら君は)」
少しぐらい背負っているものを分けてくれるのだろうか。
いや、ないだろうな、きっと。だって君は五条悟だから。
そう思うと、やっぱり高専に残る気にはならなかった。
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作者(プロフ) - 那奈さん» ありがとうございます😌私生活との兼ね合いもあり更新ペースが下がっていました💦頑張ってこれからも書いていくので、よろしくお願いいたします☺️ (4月22日 21時) (レス) id: 4fb250efc4 (このIDを非表示/違反報告)
那奈 - とっても素敵な作品だと思いました。難しいとは思いますが、更新してくださると嬉しいです。 (4月22日 8時) (レス) @page37 id: 3264f93205 (このIDを非表示/違反報告)
作者(プロフ) - 栗ここなさん» ありがとうございます😭試行錯誤しながら書いている作品なので、作者冥利に尽きます☺️これからもぜひお楽しみください😌 (3月27日 18時) (レス) id: b4c68f46cc (このIDを非表示/違反報告)
栗ここな(プロフ) - このシリーズ本当に好きです!続きをいつも楽しみにしてます🥰 (3月25日 21時) (レス) id: c0504a419b (このIDを非表示/違反報告)
作者(プロフ) - メルさん» ありがとうございます☺️こちらでもコメントしていただけて本当に嬉しいです😭頑張って書こう!という気持ちになれます🙇♀️これからも応援よろしくお願いします! (3月19日 13時) (レス) id: b4c68f46cc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:作者 | 作成日時:2024年3月18日 16時