36 ページ36
・
そんな別れがあった日の夕刻、戻ってきた高専で、久しぶりに五条くんの顔を見た。
諦めと決心、その2つが入り交じった表情で歩いていたものだから、話しかけようにもなんと言おうか悩む。
すると向こうが私に気づき、名前を呼ばれた。
「A」
「…久しぶり、五条くん」
「お前…」
ハッとした顔で、途端に腕を掴まれた。急な行動に驚いていると少し怒ったように言われる。
「無理してんじゃねぇよ」
「無理…?」
「腕、痩せすぎ。棒だぜこんなの」
五条くんはどうやら、体調管理がなっていない私に怒っていたらしい。あんなことがあった後なのに、心配されて安堵するような嬉しさを感じてしまって、自分が嫌になる。
「…ごめんね、ちゃんと戻す」
「ん。…お前、傑に会った?」
「げ、とう、くん?」
あまりにもな話題に、目を合わせることが出来なかった。声色からして、五条くんも夏油くんに会ったのだろう。そして、追うことが出来なかった。五条くんは、夏油くんを誰よりも信頼していたから。だから出来なかった。
「そ、傑。…その様子じゃ会ったんだな。なんか言ってた?」
「…もっと、成長しろって」
「なんだそれ。…マジでアイツ、意味わかんねーよな」
「…うん」
意味わかんねー、で、終わらせて良かったのだろうか。
いや、終わってなんかいない。きっと五条くんの中では終わっていない。夏油くんを呪詛師にさせたままで終わるような人じゃないし、2人はそんな浅い関係でもないのだ。
では、五条くんという人間がこの経験を経て行き着く場所は、一体どんなところなのだろうか。
「A」
「…なに?」
「俺はもう、2度と誰も独りにしない」
「…」
五条くんからそんな言葉が出てきたのが意外で、思わず黙りこくる。と、同時に、凄く彼らしいとも思った。
五条くんは、自分が「独りにされた」とは考えないのだ。“自分”が“夏油くん”を「独りにしてしまった」という、あまりにも美しい自己犠牲の思考で、未来を見据えている。
そんな五条くんは眩しいほど高潔に見える。自分と見比べると、あまりにもみすぼらしい。
214人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
作者(プロフ) - 那奈さん» ありがとうございます😌私生活との兼ね合いもあり更新ペースが下がっていました💦頑張ってこれからも書いていくので、よろしくお願いいたします☺️ (4月22日 21時) (レス) id: 4fb250efc4 (このIDを非表示/違反報告)
那奈 - とっても素敵な作品だと思いました。難しいとは思いますが、更新してくださると嬉しいです。 (4月22日 8時) (レス) @page37 id: 3264f93205 (このIDを非表示/違反報告)
作者(プロフ) - 栗ここなさん» ありがとうございます😭試行錯誤しながら書いている作品なので、作者冥利に尽きます☺️これからもぜひお楽しみください😌 (3月27日 18時) (レス) id: b4c68f46cc (このIDを非表示/違反報告)
栗ここな(プロフ) - このシリーズ本当に好きです!続きをいつも楽しみにしてます🥰 (3月25日 21時) (レス) id: c0504a419b (このIDを非表示/違反報告)
作者(プロフ) - メルさん» ありがとうございます☺️こちらでもコメントしていただけて本当に嬉しいです😭頑張って書こう!という気持ちになれます🙇♀️これからも応援よろしくお願いします! (3月19日 13時) (レス) id: b4c68f46cc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:作者 | 作成日時:2024年3月18日 16時