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物語の主人公であれば、ここは多分、起点。
きっと、成長するためのきっかけに過ぎない。
仲間の死をバネにして、主人公らしく立ち上がる。
もしそうなれば、どれほど良かったのだろうか。
「や、A」
「…夏油、くん」
声がひゅっと掠れた。身体が動かない。
「久しいね。だいぶ痩せたようだけど、大丈夫?」
「…」
「…何か言ってくれないか、無言じゃ困る」
ニヒルに笑う同級生。否、“元”同級生の夏油傑。
なぜ、君がここにいるの。
「…なに、しに」
「殺しに来たって言ったら、どうする?」
冗談っぽくそう言われるも、その言葉に私の心臓は冷えきった。本能が数メートル先の彼を恐れている。
だって夏油くんはそれが出来る人間だ。力はもちろん敵わない。それに加え、彼はもう“殺人を犯した人”なのだ。一線を超えた人間なら、私のことなど一捻りで殺せるだろう。
そう、夏油くんは数日前、任務先の村の人間を皆殺しにするという大事件を起こした。動悸は不明。ただ、様子を見る限り取り乱しているようには見えない。おそらく、黒だ。
相反する存在、呪詛師となってしまった彼を目の前に、必死に声を振り絞った。
「も、もう、二度と、姿を見せないで」
「…」
「なんでっ、なんでよりによって、夏油くんが」
「A」
吃りながら泣きそうになる私の名を口にする彼は、人殺しには見えないほど切なげな顔で言う。
「…君の歌が1度も聞けなかったことは、ちょっと悔しいけどね」
「…は…げと、くん」
「それと、もう少し鍛えた方がいいよ。術師として、君は貧弱すぎる」
「ま、まって、まって。ごじょ、五条くんは!五条くんはどうするの!」
立ち去ろうとする背を引き止めると、ピタリと止まった。振り返った時の顔に浮かんでいたのは、嘲笑。
「さぁ?それは、君の役目じゃない?」
「…え?」
「私に悟の面倒を見る義理はない」
「…でもっ、五条くんは、夏油くんをずっと頼りにして」
「うるさいなぁ」
本当に殺すよ、と、冷たい声色で告げられたせいで、とうとう私は責め立てる気力を失った。
夏油くんは、もういないんだ。優しくて、面倒見が良くて、でもちょっと意地悪な君は、生まれ変わってしまったんだ。
もう、二度と会えない気がした。多分、その通りだと思う。
「じゃあね、A。君がもう少し成長することを願ってるよ」
最後に皮肉を残して、夏油くんは消えた。
追う気には、なれなかった。
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作者(プロフ) - 那奈さん» ありがとうございます😌私生活との兼ね合いもあり更新ペースが下がっていました💦頑張ってこれからも書いていくので、よろしくお願いいたします☺️ (4月22日 21時) (レス) id: 4fb250efc4 (このIDを非表示/違反報告)
那奈 - とっても素敵な作品だと思いました。難しいとは思いますが、更新してくださると嬉しいです。 (4月22日 8時) (レス) @page37 id: 3264f93205 (このIDを非表示/違反報告)
作者(プロフ) - 栗ここなさん» ありがとうございます😭試行錯誤しながら書いている作品なので、作者冥利に尽きます☺️これからもぜひお楽しみください😌 (3月27日 18時) (レス) id: b4c68f46cc (このIDを非表示/違反報告)
栗ここな(プロフ) - このシリーズ本当に好きです!続きをいつも楽しみにしてます🥰 (3月25日 21時) (レス) id: c0504a419b (このIDを非表示/違反報告)
作者(プロフ) - メルさん» ありがとうございます☺️こちらでもコメントしていただけて本当に嬉しいです😭頑張って書こう!という気持ちになれます🙇♀️これからも応援よろしくお願いします! (3月19日 13時) (レス) id: b4c68f46cc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:作者 | 作成日時:2024年3月18日 16時