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「…それは嫌だ、ごめん五条くん、運んでくれる?」
ダメ元でそう頼んでみると、深くため息をつかれる。やっぱり無理か、と思っていた矢先、五条くんは私の身体を両手で掴んだ。そしてそのまま、肩に担がれる。
「あ、りがとう、五条くん」
「…ん」
五条くんは短く返事をした。顔は見えないけれど、少しむず痒そうにしているのがわかった。
彼は確かにあまりいい性格ではないし、硝子ちゃんに言わせるところの“クズ”なのだが、どうにも憎めない人間だ。
本当の人でなしならば、私のことなど見殺しにするだろう。
例え彼にとって私の回収が仕事だったとしても、私が生きているのは紛れもなく五条くんのおかげなのだから、感謝の気持ちでいっぱいだ。おかげで、私はまだ歌える。
「なぁ」
「なに?」
「音大、だっけ?何するとこなんだよ」
興味本位で聞いてみた、そんな雰囲気の質問に、身体の怠さが吹き飛ぶ。私は声を弾ませて答えた。
「音楽を勉強出来るんだよ。歌とか、ピアノとか、弦楽器、管楽器、作曲も」
「お前は?」
「歌うよ。声楽って言うの。昔の人の曲を主に勉強するんだ」
「へぇー。じゃあお前は勉強したくて行くってこと?」
「うん。勉強すれば、舞台に立つ資格が手に入るというか…音大でちゃんと勉強して卒業すれば、音楽家として活躍出来るかもしれないから」
「あやふやだな」
「絶対じゃないからね。でも、それでも行きたいの」
おばあちゃんみたいに歌ってみたい。歌うのが好きだ。私の人生において1番の誇りが歌えること。だから、お金を自分で稼いででも、音楽大学へ進学したいの。音大に行く以外で声楽家になる方法はないから。
ぼやけた脳内で出てくる幼い言葉を、懸命に五条くんへ伝えた。
どれくらい伝わったか分からないし、きっと耳から耳へ流れてしまっていると思う。それでもよかった。
一通り聞いた五条くんは、特に何かを言うわけでもなく、「ふぅん」などと呟くだけだった。でも最後に1つ、「楽しそうでなにより」と言ったので、たとえその言い方が呆れたものだったとしても、話せてよかったと思った。
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作者(プロフ) - 那奈さん» ありがとうございます😌私生活との兼ね合いもあり更新ペースが下がっていました💦頑張ってこれからも書いていくので、よろしくお願いいたします☺️ (4月22日 21時) (レス) id: 4fb250efc4 (このIDを非表示/違反報告)
那奈 - とっても素敵な作品だと思いました。難しいとは思いますが、更新してくださると嬉しいです。 (4月22日 8時) (レス) @page37 id: 3264f93205 (このIDを非表示/違反報告)
作者(プロフ) - 栗ここなさん» ありがとうございます😭試行錯誤しながら書いている作品なので、作者冥利に尽きます☺️これからもぜひお楽しみください😌 (3月27日 18時) (レス) id: b4c68f46cc (このIDを非表示/違反報告)
栗ここな(プロフ) - このシリーズ本当に好きです!続きをいつも楽しみにしてます🥰 (3月25日 21時) (レス) id: c0504a419b (このIDを非表示/違反報告)
作者(プロフ) - メルさん» ありがとうございます☺️こちらでもコメントしていただけて本当に嬉しいです😭頑張って書こう!という気持ちになれます🙇♀️これからも応援よろしくお願いします! (3月19日 13時) (レス) id: b4c68f46cc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:作者 | 作成日時:2024年3月18日 16時