26 ページ26
・
呪術師になるつもりなんてハナからなかった。
だって私、歌手になりたかったし。
おばあちゃんが歌ってるのを見て、自分もやりたいと思ったから。本当に、それだけ。
でもお父さんが、音大に行くなら金なんか出してやるもんか、とか言うから。だから仕方なく高専に通ってお金を稼ぐことにしたの。
「(…続ける気なんて、なかったよなぁ)」
かなり前のことなのでうっすらとした記憶だが、確かそんな経緯だった。父親の言うことも今なら理解出来る。だって音大なんて、金だけかかってろくな就職先もないし、才能とコネがなくちゃ到底売れないし。
娘のことを案じて、意地で言ったんだと思う。
でも私は諦めきれなくて、叔父の紹介で呪術高専に2ヶ月ほど遅れて入った。もう既に同級生3人の空気は出来上がっていたけれど、硝子ちゃんも夏油くんも受け入れてくれた。呪術の呪の字も知らない私に基礎から教えてくれたのも2人。私が卒業後も術師を続けるつもりがないことは知っていながら、優しく接してくれた。
ただ五条くんだけは、途中からの、弱っちい女に、しかも呪術師にはならないと公言した人間に、嫌悪感を示していたのをよく覚えている。だから私と五条くんの間には、大きな溝があった。
そんなある日、自販機で飲み物を買っていたら、不意に現れた五条くんが私に話しかけてきた。
「なぁ、お前術師向いてねぇよ。帰れ」
「…びっくりした。急にどうしたの、五条くん」
「帰れっつってんの。お前みたいなのがやってけるほど甘くねぇんだよ、ここは」
そんなことは百も承知で、私はこの場所に来た。本当なら音高にだって行きたいぐらいだけど、ただお金が必要だったから、給料のいい呪術師という仕事を選んだだけ。
そして、五条くんが私に対して本気でそう思っていることも知っている。
彼は確かにいじめっ子体質だが、私への苦言は恐らく嘘ひとつもないんだろう。
本気で、「私が辞めるべきだ」と思っているんだ。
「ありがと、五条くん。警告してくれて」
「…はぁ?」
「そうだよね、生半可にやったら死ぬ仕事だもんね。
でも私、死んででもやりたいことがあるの。
だからやめられない。ごめんなさい」
私はそう言って、丁寧に頭を下げた。そんな様子に呆気にとられた五条くんの様子に気づいたのは、顔を上げた数秒後。少し気まずくなって、私は飲み物を片手にその場を後にした。初夏を少し過ぎた頃の話だ。
214人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
作者(プロフ) - 那奈さん» ありがとうございます😌私生活との兼ね合いもあり更新ペースが下がっていました💦頑張ってこれからも書いていくので、よろしくお願いいたします☺️ (4月22日 21時) (レス) id: 4fb250efc4 (このIDを非表示/違反報告)
那奈 - とっても素敵な作品だと思いました。難しいとは思いますが、更新してくださると嬉しいです。 (4月22日 8時) (レス) @page37 id: 3264f93205 (このIDを非表示/違反報告)
作者(プロフ) - 栗ここなさん» ありがとうございます😭試行錯誤しながら書いている作品なので、作者冥利に尽きます☺️これからもぜひお楽しみください😌 (3月27日 18時) (レス) id: b4c68f46cc (このIDを非表示/違反報告)
栗ここな(プロフ) - このシリーズ本当に好きです!続きをいつも楽しみにしてます🥰 (3月25日 21時) (レス) id: c0504a419b (このIDを非表示/違反報告)
作者(プロフ) - メルさん» ありがとうございます☺️こちらでもコメントしていただけて本当に嬉しいです😭頑張って書こう!という気持ちになれます🙇♀️これからも応援よろしくお願いします! (3月19日 13時) (レス) id: b4c68f46cc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:作者 | 作成日時:2024年3月18日 16時