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正直に認めてしまえば、たぶん、この時点で既に入れ込んでいた。手が届かないと分かっていながらも、欲しいと思った。どこにも行ってほしくない、と思った。
そんでもって、俺は前にもそんなことを思った記憶が朧気にもある。
朧気だが、これは確信だ。そうじゃなきゃ説明がつかない。
「なぁ」
「ん?」
「やっぱりアンタ、どっかで会ったことあるだろ」
「…なに、急に」
俺のその一言に、AAの顔から笑みが消えた。
喉をごくりと鳴らしながらも、続ける。
「中華食った時が初対面じゃねぇ。もっと前だ」
「君はそう思うの?私は初対面のつもりだったけど」
「しらばっくれんなよ。いつ会ったかお前は知ってんだろ、答えろ」
「…」
少し強い口調で問い詰める。すると少し困ったような面持ちで告げられた。
「そんな言い方、しなくてもいいじゃん」
「それは…」
「そんなに大事かな、それ。君はどれだけ言ったって、思い出しやしないし。…私も、もう忘れたいし」
“これ以上の追及はよせ”と、暗喩した言葉。でも今、AAは“忘れたい”とも言った。やっぱり俺達は、どこかで会ったことがあるんだ。
忘れたいとか言うなよ。俺は思い出したくても思い出せねぇのに。思い出せなくてしんどいのに。
「帰ろう五条くん。君は思い出さなくてもいいんだよ。一生知らないままでいて」
「なん、で、そんなこと」
「これは個人的な願望だけどね、私は君が楽しそうにしてるのが好きだから、知らないままでいてほしい。最初は思い出してくれないことに腹が立ってたけど、今は真逆のこと思ってる。おかしいねぇ、五条くん」
息が漏れる。この歳で泣きたくなるほどに、苦しい。
俺とコイツの間には何かがあったんだ。その何かが思い出せなくて苦しい。
「…A」
今まで呼んだこともない名前を声に出したくなって、呟く。
その呟きに、AAは目を丸くして、それから、泣きそうな顔で笑った。
「うん、やっぱり君はそれでいいよ。帰ろう、五条くん」
AAはそう言って、俺の手を握って引っ張った。
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作者(プロフ) - 那奈さん» ありがとうございます😌私生活との兼ね合いもあり更新ペースが下がっていました💦頑張ってこれからも書いていくので、よろしくお願いいたします☺️ (4月22日 21時) (レス) id: 4fb250efc4 (このIDを非表示/違反報告)
那奈 - とっても素敵な作品だと思いました。難しいとは思いますが、更新してくださると嬉しいです。 (4月22日 8時) (レス) @page37 id: 3264f93205 (このIDを非表示/違反報告)
作者(プロフ) - 栗ここなさん» ありがとうございます😭試行錯誤しながら書いている作品なので、作者冥利に尽きます☺️これからもぜひお楽しみください😌 (3月27日 18時) (レス) id: b4c68f46cc (このIDを非表示/違反報告)
栗ここな(プロフ) - このシリーズ本当に好きです!続きをいつも楽しみにしてます🥰 (3月25日 21時) (レス) id: c0504a419b (このIDを非表示/違反報告)
作者(プロフ) - メルさん» ありがとうございます☺️こちらでもコメントしていただけて本当に嬉しいです😭頑張って書こう!という気持ちになれます🙇♀️これからも応援よろしくお願いします! (3月19日 13時) (レス) id: b4c68f46cc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:作者 | 作成日時:2024年3月18日 16時