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ますますAAに対する謎が深まったところで、本格的にお目当てのものを探す時間になった。
「ドナウディのね、ちょっと昔の楽譜探してるんだよね」
「それってピアノ?歌?」
「歌、伴奏付きの。いい曲多いんだよね」
「なんで、急に必要になったんだよ」
素朴な疑問をぶつけてみれば、「言ってなかったっけ?」などととぼけるAA。
「この間助けた人が、音大生でね。ドナウディの最近改訂された楽譜は持ってるんだけど、その前のも見てみたいって言われて」
「なんか違ぇの?」
「違うとこもあるよ。教科書とかもそうでしょ?」
なるほど、分かりやすい例だ。楽譜にも色々事情はあるらしい。
にしても、音大生に頼られるほどガチの趣味って相当だろ。さっき「勉強した」とか言ってたし、やっぱり元は趣味じゃなくて仕事にしようとしてたんじゃ。
「…お前こそ、歌ったりとか」
「あー…しない。しないです。もうしない」
「ふーん、なんで?」
「なんでって、出来ないから?一朝一夕で出来ることじゃないんだよね、声楽って」
「でもやってたんだろ?」
「だからそれは100年前とかの話だってば」
「なんだそれ」
いつもテキトーなこと言いやがって。
AAが分からない。お前絶対、まだ俺に言ってないことあんだろ。ちゃんと話せ雇い主。ストライキすんぞ。
「…お前さぁ」
「あっ!あった!」
文句を言いかけるも、AAの声でかき消された。その手元には、いかにも一昔前の製本で、“ドナウディ”の名が記されている。
ずっと探していた楽譜が見つかったことで、俺の怒りも吹っ飛んだ。
「良かった。中は無事かな」
ペラリ、と適当なページを開くAA。そこには五線譜の上に散りばめられた音符が踊っている。なんかムズそう。
「…懐かしい、ほんとに」
しばらく楽譜を眺めていると、AAはそう呟いた。なんとなく顔を上げて、その表情を盗み見る。
まるで我が子を見る母親のような顔だった。大切で、大好きで、いつかは巣立つ我が子の。
なんか言おうとしたけど、声が出なかった。
コイツのことなんも知らないのに、知ってる表情だけが増えていく。
「五条くん?」
「…なに」
「いや、なんかお悩みのようだったから」
「別になんともねぇよ」
「…そう?」
知らないままは嫌だ、なんて思ってしまったのが運の尽きで。
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作者(プロフ) - 那奈さん» ありがとうございます😌私生活との兼ね合いもあり更新ペースが下がっていました💦頑張ってこれからも書いていくので、よろしくお願いいたします☺️ (4月22日 21時) (レス) id: 4fb250efc4 (このIDを非表示/違反報告)
那奈 - とっても素敵な作品だと思いました。難しいとは思いますが、更新してくださると嬉しいです。 (4月22日 8時) (レス) @page37 id: 3264f93205 (このIDを非表示/違反報告)
作者(プロフ) - 栗ここなさん» ありがとうございます😭試行錯誤しながら書いている作品なので、作者冥利に尽きます☺️これからもぜひお楽しみください😌 (3月27日 18時) (レス) id: b4c68f46cc (このIDを非表示/違反報告)
栗ここな(プロフ) - このシリーズ本当に好きです!続きをいつも楽しみにしてます🥰 (3月25日 21時) (レス) id: c0504a419b (このIDを非表示/違反報告)
作者(プロフ) - メルさん» ありがとうございます☺️こちらでもコメントしていただけて本当に嬉しいです😭頑張って書こう!という気持ちになれます🙇♀️これからも応援よろしくお願いします! (3月19日 13時) (レス) id: b4c68f46cc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:作者 | 作成日時:2024年3月18日 16時