僕は僕の青春を取り戻す【∞】2 (ページ18)

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＃ページ18

◎やすださん

2012年2月。

“MCのとき白岡の態度悪すぎ。”

“結局あの子オタ嫌いなんでしょ。”

“丸ちゃんのファンサ見習え。”

「晴人…これは、自分で書いたん？」

晴人が見せてくれたパソコンのフォルダ。そこには、何十ページにもわたる自分の批評コメントが書かれた資料があった。晴人は無表情で、画面をスクロールさせていく。

『最初のページはね、ここ。』

そう言って彼が指さした文の隣には、2009年2月5日という日付が記されている。何年にもわたって作成されているこの資料は、この文から始められていた。

「2009年…晴人が、成人した年？」

俺がそう聞くと、こくんと頷いた晴人。

『こんなんやるのは良くないってわかっててんけど、見始めたらどうしてもやめられへんかった。』

彼の口から出てきたのは、僕らの誰もが知らなかった事実。晴人が人知れず批判の声に踊らされ、狂わされていたことなどつゆも知らなかった。

『倒れた日まで毎日、この資料作っては読み直して、粗探ししてた。そうじゃないと自分を保ってられへんかった。』

晴人の声が次第に震え出す。
俺は隣に座る晴人の手をぎゅっと握り、背中に手を当てた。

『黙っててごめん。』

そう言う晴人の目に、一筋の涙が伝った。

綺麗な、そして残酷な涙だった。

『この資料ね、ずっと消さずに持っておくべきやと思ってた。ファンのみんなに好かれるためには、これに書かれてることを直すことがすべてやと思ってた。』

思い返せば、たしかに晴人はファンの意見をよく気にする子だった。

せっかく似合っていた金髪もすぐに黒髪に戻してしまったし、自分が出たドラマの視聴率も気にしていた覚えがある。

だけど、こんなにも執念を持って批判コメントを集めていたことなんて想像つかなかった。

『でも、カウンセリングの先生と話して気づいた。こんなん持ってても何の意味もないって。こんなことするべきじゃなかったって。』

「そんなん、晴人のせいじゃない。」

『章ちゃん…っごめん。』

そう言った晴人は、堰を切ったように泣き出した。
俺はそっと彼の肩を抱く。

忘れないでほしい。
君の周りには7人の兄がいることを。
応援してくれる、沢山の人がいることを。

「晴人、今日でこれは消そう？こんなんなくても、晴人はきっとうまくできるよ？」

俺はそっとカーソルを動かして資料をゴミ箱に入れる。隣から、小さな吐息が聞こえた。