拾捌 ページ18
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雨が降っていた。地面に雫が叩きつけられる音と、あとは、人の叫び声が聞こえてくる。
「助けて、助けてくれェ!!」
呼吸が荒い。伸ばされた手は血に濡れていて、私はただ震えることしかできなかった。
これは何、誰かの記憶?
そう思わざるを得ない程身体は自由なのに、妙に現実味の強い光景。
向こうから黒い影がにじり寄って来ていた。手負いの私は身体が動かず、ただ荒い息を繰り返している。
「あ"ァ」
目の前の男が踏みつけられ、黒い影はそのまま私の元へとやってくる。
「美味そうな娘だ」
口の端を持ち上げた化け物は私に手を伸ばした。その長い爪で私の喉を掻き切ろうとした、その時だった。
「炎の呼吸、壱の型」
視界の端で紅い炎が揺れている。華やかな羽織が靡いて、辺り一面が真っ赤に染った。
「不知火」
あぁ、そうか。これは御先祖様の記憶か。じんわりと涙が滲み頬を伝っていく。
「ありがとう…ありがとう、ございます」
その男は、名乗りもせずに去っていった。紅い華の簪を落とし、そのまま。
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シルビア★姉貴 - 中村さん» もし良ければ私と鬼滅で合作しませんか?? (6月14日 16時) (レス) id: e86143b1ee (このIDを非表示/違反報告)
中村(プロフ) - NIKOさん» お読みいただきありがとうございました。感動していただけたならばとてもとても嬉しいです。 (6月11日 18時) (レス) id: 97c232aa64 (このIDを非表示/違反報告)
中村(プロフ) - Lullさん» コメントありがとうございます。沢山お褒め頂けて嬉しいです。続編もお読みいただけると幸いです。 (6月11日 18時) (レス) @page29 id: 97c232aa64 (このIDを非表示/違反報告)
NIKO - 面白過ぎですよ…涙腺崩壊させる気ですか? (6月11日 9時) (レス) @page29 id: 412fd2ba39 (このIDを非表示/違反報告)
Lull(プロフ) - 完結おめでとうございます。占ツクにはなかなか無い地の文多めのお話で雰囲気がとても好みでした……煉獄さんとの日々が丁寧に描写されていて没入がとてもしやすかったです。続編楽しみにしております。 (6月6日 20時) (レス) @page24 id: 96403d796f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:中村 | 作成日時:2023年6月4日 0時