拾肆 ページ14
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息を切らしながら山道を走る。下駄では歩きにくく、すぐに脱いで裸足で駆け出した。
期待しないと決めたのに。情を持たないと決めたのに。結局、私は変われなかった。
「お父さん、お母さん、どうかあの人を守って下さい」
そう願わずにはいられない。どうか、どうかと繰り返しながら重くなった足をひたすらに動かし続けた。
木々により陽の光を遮られた山の中は薄暗くひんやりとしている。昼か夜かもわからずにがむしゃらに走り続けて、私はようやく彼の姿を見つけた。
「炎柱様!!」
そう叫ぶと、彼は今までに見たことのないような表情で私を振り返った。隊服を身に纏い、手には刀を握っている。
久々に見たその姿に思わず息を呑むと、 黒い影が炎柱様の肩越しに視界に入った。
「近寄るな!」
そんな叫びと同時に炎柱様は足を踏み出し高く高く舞い上がる。そのまま刀を振り下ろし、そこから紅い炎が蠢いた。
生き物のような動きをする炎は私の心をも熱く燃やしてしまう。陽の光のような温かさと、燃え盛る炎のような強さを以てして。
「…綺麗」
ぽつり、と口から零れ落ちたのはそんな言葉で。次の瞬間、耳を塞ぎたくなるほどの悲鳴が黒い影から発せられ、つい目を閉ざす。
「無事で良かった!」
次に瞼を開いた時、視界いっぱいに炎柱様の顔が広がっていて。逞しいその腕に抱き上げられた私は、そのまま屋敷へと連れて帰られたのであった。
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シルビア★姉貴 - 中村さん» もし良ければ私と鬼滅で合作しませんか?? (6月14日 16時) (レス) id: e86143b1ee (このIDを非表示/違反報告)
中村(プロフ) - NIKOさん» お読みいただきありがとうございました。感動していただけたならばとてもとても嬉しいです。 (6月11日 18時) (レス) id: 97c232aa64 (このIDを非表示/違反報告)
中村(プロフ) - Lullさん» コメントありがとうございます。沢山お褒め頂けて嬉しいです。続編もお読みいただけると幸いです。 (6月11日 18時) (レス) @page29 id: 97c232aa64 (このIDを非表示/違反報告)
NIKO - 面白過ぎですよ…涙腺崩壊させる気ですか? (6月11日 9時) (レス) @page29 id: 412fd2ba39 (このIDを非表示/違反報告)
Lull(プロフ) - 完結おめでとうございます。占ツクにはなかなか無い地の文多めのお話で雰囲気がとても好みでした……煉獄さんとの日々が丁寧に描写されていて没入がとてもしやすかったです。続編楽しみにしております。 (6月6日 20時) (レス) @page24 id: 96403d796f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:中村 | 作成日時:2023年6月4日 0時