あの日、あの時#5 ページ6
「海原さんは、手伝いで入れたわけじゃないです」
技術者を一人追加する、と伊沢さんに言われた時、反対こそしなかったけど疑問に思った。QuizKnockのエンジニアはFalconさんを中心に今でも十分回っているのに、そこにFalconさんと実質同等レベルの発言力を持たせる人を入れる必要性を感じなかったから。
伊沢さんが入れたいと言うからみんな口にしなかっただけで、みんな疑問には思った筈だ。
「QuizKnockを大きくするために、海原さんの技術力と人脈の広さが必要だと判断しました。手伝いとか、そんな軽いものじゃないです」
きっと海原さんも手伝いと称したのは言葉の綾で、手伝いだから手を抜くとかしない人だというのは分かっている。けど、伝えないといけない気がした。
たとえ海原さんにとってはいっぱいある契約先の一つだとしても、俺達は海原さんを迎え入れたかったから。だから遠慮なんてしてほしくない、一歩引いたところなんかじゃなくて輪に入ってきてほしい。
文学部だというのに、上手く言葉が出てこない。
「だから……えっと……」
「そこで詰まるんかーい」
「すみません、言葉が見つからへんくて」
酔った頭で難解な気持ちを伝えるのがこれほど大変だとは思わなかった。
海原さんはまた、ニッと笑った。
「うん、大体分かった。技術者目線だけど、遠慮なくダメ出しするね」
「ライター陣にもするんですか?」
「システムぶっ壊したら遠慮なくシメる」
「肝に銘じておきます」
一応高学歴が集まってるから無許可でいじることはないだろうけど、なにせ好奇心の塊が集まってるから、100%ないとも限らない。
「そっちこそ、改善点とかあったら遠慮なく言ってね。割とどんな無茶ぶりも答えられるよ」
遠くからまた、伊沢さんが声がした。
「これからよろしく、川上くん」
「……はい。よろしくお願いします、Aさん」
「──なんてこともありましたね」
「え、何のことかサッパリ。それより近くないかな」
Aさんの後ろから抱き着くようにしてモニターを見る。今日もいい匂いだ。
「相変わらず仕事量多いですね。マルチタスクって次元じゃない」
「同時に複数のプロジェクト入ってると慣れるよ」
四つのモニターで全く違う作業をするAさんの耳は、この間のデートの記念にあげたピアスがぶら下がっている。
「Aさん」
「ん?」
「呼んでみただけです」
「彼氏か!」
「はい」
「はいじゃねぇよ」
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ゆえ - 前々から楽しく読ませていただいています。QuizKnockではありませんが、川上さんがYouTuberに復帰されたので、続きを書いて頂けませんか?どうぞよろしくお願いします。 (2022年11月3日 22時) (レス) id: b752a04231 (このIDを非表示/違反報告)
氷室(プロフ) - 雪結さん» コメントありがとうございます。楽しんで頂けたなら何よりです。いつか最終回だけでも書くので、その時まで気長にお待ちいただけると幸いです! (2021年3月28日 18時) (レス) id: 54fb5e0695 (このIDを非表示/違反報告)
雪結(プロフ) - 初めまして。このお話を読んでキュンキュンさせていただきました。氷室さんが更新された時、また 見に来ます。待っています。 (2021年3月28日 13時) (レス) id: aec5ea7276 (このIDを非表示/違反報告)
あうる(プロフ) - あれだけ一途に思い続けた彼には幸せになってほしいと私も思います。もちろん主人公にも。いつか更新してもいいなと思える日が来たら、幸せにしてあげてください。そんな彼の姿が見れるのを気長に待ってます。 (2021年3月14日 19時) (レス) id: 88916843f5 (このIDを非表示/違反報告)
氷室(プロフ) - あうるさん» コメントありがとうございます。ハッピーエンドにたどり着けなかったという言葉にハッとしました。実は最終話だけは書き上げていたので、もしかしたらいつかそれだけ載せるかもしれません。私の書いた彼が幸せになるところを、何より私が見たいので…。 (2021年3月14日 0時) (レス) id: 54fb5e0695 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:氷室 | 作成日時:2020年1月2日 19時