【WT】貴方と紡ぐ【短編集】 (ページ6)

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kr/だって今日はページ6

今日が土曜日であるという事は、当然昨晩は金曜日である。
つまり、

『ねーきりやん、そろそ「だめ」…』

同棲中の彼、きりやんが二日酔いするのである。
先週も先々週もそうだった。金曜の夜は彼にとってパラダイスらしく、いくら飲んでも明日は休みだからと羽目を外して帰ってくるのだ。普段は仕事のためにセーブしているようだし、相手が面倒になる事を除けばそれ程不快さを感じていなかった。

だが、今回を除く。

私は今、思い切りきりやんに抱き締められており、腕の1本を動かすことすらままならない状況にある。私はきりやんと違って健やかに入眠したので、意識は既に確かだ。端的に言えば、暇である。早くベッドから出てしまいたいが、抜け出そうとする度きりやんにどんどんきつく締めつけられてしまう。ただ横にいる男の温もりを感じながら天井を眺めるこの時間。一体なんだというのか。あ、修行？
初めは今日が休みの日であることもあり寛容になれていたが、そろそろ堪忍袋の緒が切れそうだ。

『…本当にそろそろ離してくれない？』

私がそう語気を強めて言葉を発すると、途端に視界が動いた。
目と鼻の先には、眩しそうに目を細めた彼。彼の両手は私の頬を包み込んでおり、彼によって顔の向きが変えられたのだとわかった。
眼鏡をかけていない彼を、このような至近距離で見つめることはなかなか無い。彼の金髪が、カーテンから漏れる陽の光に照らされ輝きを放っている。瞬きですら認識できてしまうこの距離に思わずときめいてしまった自分を制し、相手に悟られぬよう顔を整えた。

『きりやん、そろそろ怒るよ？』

こちらの怒りは何一つ伝わっていないようで、彼は左の手で私の髪の毛をすくい取り、割れ物を取り扱っているかのように優しく口付けを落とした。

「いーじゃん、今日はおやすみなんだし」

普段は端正な言葉で構成されている彼の発言が、完全にゆるみ切っている。
彼は表情を柔らかく崩すと、へへへと些細な照れ隠しを見せた。

土曜日、午前10時。暖かな布団と温かな彼に包まれてしまえば、そこにはもはや、なす術など無いのかもしれない。

互いの熱が溶け合うように、彼の指と私の指を絡ませた。それを合意のサインと受け取ったのか、唇に彼の体温が触れた、かと思うと、そのまま睫毛が伏せられてしまった。この様子だと、もうしばらく起きそうに無い。

変わらず彼の腕の中にすっぽりと収められた私。

『…ま、いっか』

だって、今日はおやすみなのだから。