【WT】貴方と紡ぐ【短編集】 (ページ22)

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sm/今来むとページ22

※実在する和歌を引用しております
セフレ表現があります

〈今日会える？〉

突然の彼女からのDM。どの人間も、結局習性は同じらしい。こちらの都合などお構い無しだ。最も、連絡が来てしまえば無理にでも都合を開けるのだから、あながち間違いでは無いのかもしれないが。

彼女は酷く気ままである。10分後には予定が変わっていることも珍しくない。画面に表示された通知をタップし、即座に返信をした。

〈会えるけど〉

メッセージの右下に申し訳無さそうに着いた既読の文字。それが、俺と彼女を繋ぎ止める唯一である。

彼女の入力を待つと、いつも通り家に来いとのことだった。電車でおよそ45分、タクシーを飛ばして30分の絶妙な距離に、彼女は生息している。

さて、今晩会うとなれば支度をしなくては。
我らが姫は、誰よりも繊細なのだ。

まず初めに、着衣を脱ぎ捨て風呂場へと直行した。全てを消し去るようにシャワーで体を強く洗い流す。湯はまだ温まり切らず、生ぬるい感触がして気味が悪い。
特に必要は無いであろうが、惰性で髪の毛まで流しておいた。肌寒くなってきたといえど汗はかく。流しておいて損は無いだろう。
風呂場から出ると、わしゃわしゃと身体の水分を拭き取った。湯冷めせぬうちに袖に手足を通し、ドライヤーで髪の毛を乾かす。最近髪の毛が伸びてきた。そろそろ散髪の時期かもしれないな。

ふと、鏡の中の自分と目が薄ら笑みを浮かべていることに気がついた。それは喜びからなのか、はたまたそれ以外か。それを探求する好奇心は、もはや己には存在しない。

仕上にリップクリームと、ハンドクリームを塗っておいた。どちらも彼女から貰ったものだ。彼女好みの香りが鼻腔をくすぐる。甘酸っぱい苺の香り。

「まあ、こんなもんだろ」

あまり遅くなっては本末転倒だ。彼女の気が変わらぬうちに、早くタクシーに乗り込んでしまおう。

財布とスマホ、必要最低限の手荷物を持ってドアから飛び出し、さて鍵をかけようと手を伸ばした時だった。
ゔーっとけたたましく振動する端末が、冷たく通知を表示した。

〈やっぱこないで笑〉

「はっ…？」

なんだそれ、何言ってんだ、こいつ。
頭にもやがかかった気分で、思考が上手くまとまらない。ぐちゃぐちゃだ。
であるにも関わらず、それに反した俺の指は、まるで自立した生き物かのように文字を打ち込んでいた。

〈なんで？〉

送信済みと表記されたその言葉に、もう既読はつかなかった。