【WT】貴方と紡ぐ【短編集】 (ページ21)

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br/卒業おめでとうページ21

※brさんの表記をぶるーくとしています

拝啓、卒業生の皆々様。
ご卒業、誠におめでとうございます。
春の花が芽吹き出し、暖かな日差しに包まれる今日、私は卒業生と口論を繰り広げています。

「ねぇなんでー？！僕ちゃんと卒業まで待ったじゃん！！」

そう言って目の前の生徒は、卒業式の定番アイテムである大きな黒い筒を、有難みもなく振り回した。

話は2年ほど前へと遡る。

"僕、先生の事好きになっちゃった"

となんとも生意気に気取ってきたのがこの男、ぶるーくくんであった。愛称で呼んでいることから親密な関係にあるのではないかと疑われるかもしれないが、ぶるーくくんの学年は、教師を含めほとんどが彼を"ぶるーく"と呼んでいる。決して、断じて、全くもって生徒と先生以上の関係に至っている訳では無い。

生徒からの告白を受けるなど、当然御法度である。しかしながら、高校生という多感な時期において教師から拒絶されるという、のは些か精神に影響を与えかねない。

思春期では珍しくない、尊敬と恋慕を履き違えた結果だろうと踏んだ私は、彼からの問いに"卒業まで待ってくれたらいいよ"と答えた。勿論、卒業までに目を覚ませよ、との思いを込めて。

『いや…でもほらね？先生と生徒だし…』

「もう僕生徒じゃないんですけど！！」

卒業の日を迎えるまで想われ続けるなど夢にも思っていなかった私は、ぐずり続ける彼への対応策を持ち合わせていなかった。逃げようにも言い訳が思い浮かばない。大変まずい。

早くも周囲に人が集まり始める。中には、生徒だけでなく保護者も見られた。彼は顔が広いため、一刻も早くこの場を収めねば、どんどん騒ぎが大きくなってしまうかもしれない。

慌てふためく私を他所に、ふとぶるーくくんが思案顔になった。なんとなく嫌な予感がして一歩下がると、彼はその長い足で一思いに踏み込んでくる。

唇に温かな感触がしたのは、その直後。

彼のほっそりとした指が、私の両頬から離れていった。

「約束破ったんだから、先生がいけないよね？」

周囲から上がった黄色い声援とは対照に、自分の顔が赤く染っていくのがわかる。
いたずらな彼の笑顔が酷く眩しい。

桜吹雪が舞い上がり、花たちが咲き乱れるこの今日という日。

私たちは、生徒と先生を卒業する、かもしれません。