【WT】貴方と紡ぐ【短編集】 (ページ3)

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shk/初心な彼氏ページ3

突然だが、現在私たちは市外の有名な水族館に来ている。少し前にSNSで話題になっており、水族館好きの彼が声をかけてくれたのだ。
仄かに暗く優美な魚たちを眺められるこの場所は、デートにはもってこいなムードを醸し出している。

であるにも関わらず、隣にきっちり1人分スペースを開けて立っている男ーーシャークんは、私の存在などそっちのけで、目の前の大きな水槽に釘付けになっている。悠々自適に泳ぐサメの姿は、彼を魅了する何かを持っているのだろうか、彼女の私よりも。

付き合って半年が経つ。立派な成人なのだから手を出されても良いくらいだと思うのだが、比喩表現では無く本当に手すら出されていない。何度も出掛けはしたが、私の空いた両手は温もりを与えられぬまま全て夕方頃には解散している上、自分から一歩距離を近づけようものなら二歩遠くへ退かれてしまう。

初めは初心なだけかもしれないと様子を伺っていた。けれど、ここまで来るともはや初心だなんて言葉では片付けられない。
これではまるで、付き合う前と何も変わらない、友達のままだ。

思えば、アプローチをしたのも、告白をしたのも私だった。飲み会で出会った、友達の友達。初対面とは思えないほど馬が合ったのは、私の勘違いだったのだろうか。

水族館の照明のように、薄暗くなっていく私の心。

「…A？どうした？」

彼は顔色悪くね？と怪訝そうに目を細め、けれど決してその精悍な顔で覗き込んで来ることはなく、視線だけを私に移した。

底の見えない沼へと思考が堕ちていく。
だめのかなー、だめなのかもな、私じゃ。

『ねぇシャークん』

私の事、好き？