kn/優しい彼 ページ12
※一部浮気描写を含みます。
馬鹿、惨め、哀れ、情けない。
そう言われてしまえば、それまでだった。
二人で写真を撮る時、必ず私のスマートフォンを使うようになった。私の知らない男性アイドルにやけに詳しかったりもしたし、一晩連絡が着か無かったりする事も珍しくなくなった。
いつから、だろう。
挙げてしまえばキリがない、ほんの些細な事。それでも、ずっと自分に言い聞かせてきた。
彼は新作のアイスを見かけただけで私に連絡してくれるし、デートのため切った髪にすぐに気がついてくれるし、買い物にも嫌な顔ひとつせず付き合ってくれるし、私の好きなものを把握していて、いつも頭を撫でてくれて、その後決まってこう言うの。
……あれ、なんだっけ。
上手く思い出せない。あれ、きんときいつも、なんて言ってたっけ。頭がぐるぐるする。黒いクレヨンで塗りつぶされたみたいに、ごわごわして、元の絵なんか何も見えなくなっちゃったような、そんな感じ。何を思い出そうとしてたんだっけ、私、これからどうしたいんだっけ。
「A?どうしたのぼーっとして」
まずは彼の温かい声が届いて、その次に彼の香りに包まれた。ふんわりとしたローズの香り。
後ろから私を覆って、覆い尽くして、そのまま跡形も無く存在を隠してくれればいいのに。
「最近頑張ってるもんね、お疲れ様。よしよし」
彼の体温が私を優しく撫でる。
いつもこうだ。彼はいつも優しい。昨日もこんなに優しい彼で、きっと明日も優しいままだ。
「A、愛してるよ」
『…うん、私も』
愛してるよ、きんとき。
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作者名:えん | 作成日時:2023年9月26日 17時