with you3 【Kazuma.k】 (ページ12)

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踏み越えて、白ページ12

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何処かすっきりした気持ちでお風呂から上がったら、ふと喉が乾いていたのに気が付いて、自室へ向かう道のりをUターンしてリビングへ向かう。

深夜、時計が回りきった静かなリビングで、お目当の冷蔵庫に手をかける。

すると、その密やかな空間に自分以外に人の気配がするのに気付いた。
間接照明に薄明るく照らされたソファには、まさかの先客がいた。
そのよーく見慣れたシルエットが誰かなんて、顔を見なくたって分かる。
というか、こんな夜更けに共用リビングに居座るような物好きな人を、私は1人しか知らなかった。

振り向いたその人は、まるで私のことを待ち構えていたかのようなタイミングで振り返る。

「なあ、ちょっと話さへん」

暗闇に同化した黒髪の隙間から、壱馬くんの綺麗な瞳が、鋭さと、重たい輝きを増す。
いつもならここで揚げ足を取っていそうな所だったけど、そんな余裕がないくらいに、今までに見たことのないその雰囲気に呑み込まれてしまいそうだった。

こくりと返事の代わりに一つ頷くと手招きをされた。
冷蔵庫から適当に飲み物とコップと持ってそこへ向かえば、ソファの壱馬くんの横のスペースをぽんぽんと叩かれて座るように促される。
2人で夜に語り合う時には、ここが私と壱馬くんの定位置だった。
壱馬くんの前にはこれまたお決まりのマグカップ。

久しぶりに顔を突き合わせて話をすることもあってか、変に緊張してしまう。
横では何とも思っていない風にマグカップを煽る壱馬くんの横顔がいつもと変わらず綺麗で、ゆるゆると流れる夜の雰囲気にも相まって、何だか無性に自分の気持ちに素直に向き合えた。

ああ、いつも見てきたこの横顔が、すごく好きだな。

「今日で、最後やな」
「うん、今までお世話になりました」
「はは、なんでそんな他人行儀なん」
「いや、なんか…」
「緊張しとる？」

言葉と共にさっと自然に拐われた右手と、人を試すかのように挑発的に細められた瞳に胸が騒つく。

…この人、分かってやってるんなら相当ズルいと思うんだけど。

こんな風な思わせぶりな態度にどれだけ翻弄された日々だったか、思い返してみたらキリがない。
それに乗せられないように分からないフリをしていた時も、気付いてしまって尚更一喜一憂させられることになった今も全部ひっくるめて、今思えば楽しかったし幸せだったのかもしれないな。

一つ一つの些細な事が最後に思えると、愛おしく特別な物に思えてくるのは不思議だ。

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