Ｖ１時代に返り咲きまして【稲荷崎】

148：騎士 ページ15

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時は少し遡り一日前





「あ、Aやん。おにぎり買っていかん？」

もうすぐ男子の試合が始まるため、ちょうど客がはけていたこの時間

見覚えのある後ろ姿を見て思わず声をかける


でも、その声に振り返ったAの顔には覇気がなくて


なんやねん、なんかあったんか

顔には色味がなく、目には光がない



『え、えーと。おにぎり！うん、おにぎり買う！買いたい！』


なんかあったことはバレバレなのに、必死に隠そうとするA

何年一緒におったと思ったんねん

何年離れてたって“友達”の異変くらい気づくわ、あほ



「水臭いなぁ。俺も話聞くくらいならできんで」


そういうと少し顔を渋くしたA

あー、これ片割れ関連やなあ

表情からしてあいつと上手くいかなかったのは分かる


どうせあいつが拗らせて、思ってもないこと言ったんやろ

自業自得や

俺にとっては都合ええけど、好きな子が悲しんでる表情を見るのは心が痛む


それに、そないな悲しそうな顔しとるってことは、あいつと上手くいかなくて悲しんどるってことは、多かれ少なかれまだ気持ちが残っとるちゅうことやん


本人は気づいてへんかもしれんけど


なんやねんそれ、めっちゃ腹たつ

今回俺なんも出来ひんし、そう思いながらいまだに渋い顔を浮かべるAにやんわりとフォローを入れる


「ま、無理せんでもいいで」


でもなあ、このままやとこいつ自分で抱え込むからなあ

誰か相談相手になるピッタリな相手はおらんやろか

そう思ったところで一人の男の顔が浮かぶ


うわ、めっちゃ適任のやつおった

しかも今遠征で兵庫におるんだとか

めちゃくそピッタリやけど、あいつに任せるのはなんか悔しい


まあでも、それでAの気持ちが軽くなるんならええか



「明日の夜暇？」

『うん、明日はもう兵庫に帰ってるから』

「ほうか」

後で余計なお世話だって怒られるかもしれんな

でもまあ誰かに話せば気も楽になるやろ

その誰かがあいつなんは悔しいけど


怒られる覚悟はできとるし、ビンタでもなんでも受け取る

ビンタ一つであいつの気持ちが少しでも晴れるなら本望や、とか臭すぎるわやめよ




「ほな、ここの店に来てもらえん？」

よしよし計画通りや


『え、いやいいけどなんで？』


…言い訳考えとらんかった


「…話したいことがあんねん」


明日の計画が上手く行くよう祈りながら、苦し紛れの嘘をついた



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