黄金時代に舞い戻りまして【稲荷崎】

97：来訪者 ページ5

．






起きてすぐ、右膝を確認する


これは私の癖になってしまった



病院の窓から外を眺める

桜があったりでもしたらロマンチックだったのに、なんて心の中で笑ってみるけど、どうにも気分は晴れない





「Aさーん、リハビリ室に行きますよー」


あれから、両親と相談した結果リハビリと痛み止め治療に専念することにした

学校は2週間くらい休んで、入院する


入院後も学校に行きながらリハビリは続ける



両親は私を元気づけようとしてか、いつも以上に明るく接してくれたけど、やっぱまだ辛いもんは辛い








そんな入院五日目、今日は珍しいお客さんが来た



「．．．先生にプリントとか渡してこいって。あと」


定期テストもあるし、ノートいるかと思て



不機嫌そうな顔をした侑が来た





『あっはは、わざわざありがとうー』


なんて、必死に笑顔を取り繕って言うけれど、それはすぐに見破られてしまった




「変な作り笑いすんなや」

下手くそすぎ、と侑に指摘されて押し黙る





ずっと黙ったままでいると、侑が困ったように頭をかきながら口を開く




「．．．話せば少し楽になるんちゃう」



それは、正に図星で


私は誰かに聞いてほしかったんだと思う


変に慰めようとも、同情とかもしない相手に





『なんで、私だったんだろう』


決して楽しくない話を侑はずっと聞いてくれて



いつの間にか私の顔は、涙でぼろぼろになっていた







．



リハビリだけ(手術なし)で入院にはならないと思いますが、物語の都合上、ご了承ください



．

98：恋煩い→←96：絶望

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す