元彼が知らんうちに転生して俳優になってた

嘘か本当か知り得ない ページ31

【今からガチ恋♡始めます】の初収録の前日、出演する鷲見ゆきは、師匠であるAのもとを訪れていた。



「放課後というスタンスの撮影だが収録は休日だ。土台はどう作る？」

「『直近の“放課後”の感覚を思い出す』」

「良し。では次。

『今ガチ』はやらせが少ない。だがきみは役者じゃないから演技は難しい。目立つにはどうする？」

「『自分の感情を誇張して表に出す』」

「その時にやってはいけないことは？」

「…感情を出す方向をごっちゃにすること！」

「その通り。大人しい、真面目、悪女、癒し系、小悪魔、攻撃的…自分が感情を出す上で矛盾のない性格を選べ。例えば真面目キャラで通ってていきなり物に当たってキレたら共演者も視聴者も混乱する」

「矛盾が出そうだったら？」

「隠すか、敢えて少しだけ見せてギャップを魅せる」

「なるほど…」



教室の黒板並に大きいホワイトボードにAとゆきが並び、Aは問題点を、ゆきは自分なりの解釈を書き込んでいく。



「次。きみの長所は？」

「カメラの目線がわかる」

「正解。どこから撮られているのか、どう映るかが分かっていれば“可愛く映る”という最低ラインはもうクリアしている」

「最低ライン…番組の目標は誰かとくっつく、ですけどそれは？」

「視聴率さえ取れればどうでもいいんだ。それに鷲見、きみは今まで男女関係が真面目だったんだからいきなり飛び込むのは無理がある」

「う…おっしゃる通りです」



他に気になるところは、とAが問えば、ゆきはAが書いた“性格”を丸で囲った。



「私たぶん一番年下ですけど、後輩っぽく行くかタメで行くかどうしよう…」

「後輩っぽく行くことのメリットは？」

「“後輩枠”ってわかりやすい立場になれる。みんなから可愛がられる」

「デメリットは？」

「後輩にしか見られないままだと恋愛に発展しなさそう」



ゆきの意見を真っ先に否定せず、深く掘り下げて自ら答えを導かせようとするAの指導は正しい。

教師に向いてそうだが、厳しい時は死ぬほど厳しいのでやっぱり向いてはいない。



「ではどうする？」

「恋愛(・・)リアリティショーだから少しでも近づけるように…タメで行きます」

「良し」

「ありがとうございました！」



ゆきがホワイトボードをスマホで一枚カシャっと撮ったのを最後に、本日のAの指導は終了した。

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