誰よりも強い君以外は認めない ページ29
芸能界を引退して数ヶ月。
姪っ子2人の授業参観に、忙しい姉夫婦の代わりに出席した日。
「俺のこと覚えてますか」
「……姫川上原ジュニア」
「大輝です」
このまま友達と遊びに行く、と言った姪っ子達を見送った直後、ふいに話しかけられた男の子には見覚えがあった。
「よく私だと分かったな」
「歩き方」
「予想外の回答」
元々Aは化粧映えする顔立ちだったため、女優時代は多種多様な濃いめのメイクをしていた。
今は敢えてテレビでは一度もやらなかったナチュラルメイクに特徴の泣き黒子二つを消してしまえば、容易に一般人に溶け込めた。
「きみ今どこに住んでるんだ?」
「施設」
「ごめん」
「?べつに」
自分にデリカシーがない自覚はあったが、子供にまでそれを発揮するほど鬼畜ではない。
すぐに謝ったが彼は気にしていなかった。
どちらかと言えば、Aに頼みたいことがあったのだ。
「Aさん、お願いします。俺を舞台役者として育ててください」
「…私の養子にでもなる気か?」
「なんでもいい」
「なんでもいいって…」
今のAには配偶者も実子もいないので手続きは簡単で、そういう施設にいる彼を引き取るのには問題はない。
だが、そう簡単にホイホイ進めていい話でもない。
ほとんど他人だった子を引き取るのだ。
それにAは彼の母とそこまで親しかったわけでもない。
アクアとルビーを引き取らず、ミヤコに任せたのはそういうことだ。
「理由は」
「あなたがいい」
「…何を」
「あなたの羅刹女とカムパネルラが見た景色を、俺も見たい。
役者になった俺を最初に認めてくれるのは、あなたがいい」
舞台役者になりたいと言った言葉が、子供心のものだけとは言えなくなった。
逡巡した末に一つため息をついたAは、わかったと言った。
「きみを私の内弟子にする」
「内弟子…」
「私が世話になった劇団は色々あって難しいけど、他のところからツテがあるから話を通しておく。稽古のある日は私の家に泊まっていい。
自分の名前くらい自分の好きなようにしろ。私の名を借りる必要はない」
「…ありがとうございます」
養子縁組にしなかった理由は色々ある。
年頃の姪が近くにいるから、子供を育てられる自信がないから、役者になれなかった時にどうなるかわからないから。
もう一つは、“不知火大輝”ではなく彼の望む名を名乗れるから。
暫くして、彼は姫川大輝と名乗るようになった。
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HANON(プロフ) - ふぉん鴉さん» ありがとうございます!魔女ちゃんのお相手は誰になるんでしょう… (10月21日 22時) (レス) @page15 id: 42f4c6aba7 (このIDを非表示/違反報告)
ふぉん鴉(プロフ) - 更新ありがとうございます!!作者さんの立ち位置が自分と似過ぎていて滅茶苦茶分かる!と思いました、丸。 (10月16日 22時) (レス) @page13 id: e0721d2717 (このIDを非表示/違反報告)
HANON(プロフ) - ふぉん鴉さん» 神作なんて光栄です!頑張ります。ふぉん鴉さんコメントありがとうございました。 (7月23日 12時) (レス) id: 42f4c6aba7 (このIDを非表示/違反報告)
ふぉん鴉(プロフ) - 自分の中での神作有難うございます。゚( ゚இωஇ゚)゚。これからも頑張ってください!応援してます(oˆ罒ˆo) (7月23日 6時) (レス) id: ecacc3dc55 (このIDを非表示/違反報告)
HANON(プロフ) - らーさん» 頑張ります。らーさんコメントありがとうございました。 (7月22日 16時) (レス) id: 42f4c6aba7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:HANON | 作成日時:2023年7月16日 1時