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「きっと奥さんは、もっとたくさんの冥途の土産話を待っていると思いますよ?」
老人は瞠目した後、遠いところを見た。天井を抜けたもっと先を。
「そうか…そうかもしれないね」
その時、勢い良くドアが開き、息せき切った少年が入ってきた。
「君は…」
「おじいちゃんが、ここに居るって…」
少年は、両親の間に居る老人を見つけると、瞳を輝かせた。
「おじいちゃん!」
その少年を見た途端、いつも冷静で落ち着いた老人の感情が、急に動き出した。達観したように静かだった瞳に、見る見る涙が溢れた。
「大きく…なったね」
学生服に、大きなスポーツバッグを肩にかけた少年は、興奮して話した。
「おまわりさんに聞いたんだ。おじいちゃんは人を助けて怪我をしたんだって!」
「そうだよ」
うまい言葉が見つからず、黙っていた大野が、そっと相槌を打って、言葉を続けた。
「おじいちゃんにオレ、助けられたんだ。キミのおじいちゃんはすごい人なんだから」
少年が、誇らしげな笑顔になった。
「ねえ、五十嵐さん」
大野は、サイドレールに繋がって、顔を近付けた。
「オレ、五十嵐さんにいろんな事教えてもらって、すごく感謝してる。五十嵐さんに出会えてなかったら、常識とか社会の決まりとか全然知らない大人になってたかもしんない。ありがと、五十嵐さん」
まるで、別れの言葉のような事を言う大野の意図が分からず、老人は額の皺を寄せた。
「だからさ、今度は彼にその大事なことをたくさん教えてあげてよ。ちゃんとした大人になれるように」
「大野くん…」
「最後は命まで助けてくれて、ありがと」
「僕の方こそ、君が居てくれて、寂しい日々を過ごすことが無くて…本当に孫のように思っていたんだよ」
「今度は、ほんとのお孫さんだね」
老人の瞳が、再び潤んだ。
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1980love(プロフ) - 美しいmさんの顔も、可愛いoさんも幸せそうな二人も。たくさんの場面が目に浮かびました。mさんのために自分を大事にしたいって思うように変化していくのがとてもキュンキュンしました。一緒に暮らし始めたふたりが末永く幸せでありますように…。 (2020年4月14日 12時) (レス) id: e576671ee9 (このIDを非表示/違反報告)
斑野 ニケ(プロフ) - 青龍葵様 読んで下さって有難うございます。カレーとシチューの時間軸が違うので、別の日になってるので間違っては無いのですが、字数の制限で詳しく説明が入れれなくて理解し難い書き方になってしまって、申し訳ありません(汗) (2018年10月4日 1時) (レス) id: 6f3d786cf4 (このIDを非表示/違反報告)
青龍 葵(プロフ) - 初めまして!素敵な作品で思わず一気に読ませて頂きました。また今後の活躍(MO小説)を楽しみにしてますw ※一部、誤字がありました。P82では「カレー」表記が、P84、P89では「シチュー」になってるので訂正お願いします。 (2018年10月3日 2時) (レス) id: 92632a3282 (このIDを非表示/違反報告)
あみ(プロフ) - 出遅れコメント 失礼いたします。かのお二人のお姿 お声 しっかり届き 溺れ 読ませて頂きました!そして何度も繰り返し読ませて戴き 癒されております。またの作品を楽しみにしています!あ〜ハイボールも美味い です! (2018年6月8日 19時) (レス) id: 6d8377daa0 (このIDを非表示/違反報告)
斑野 ニケ(プロフ) - 波智様 そ、そそそんなに褒められると穴掘って冬眠しそうです!今回は特にややこしい事抜きで、素直なラブストーリーを描きたかったので、楽しんで頂けてホッとしております。読んで下さって有難うございます。 (2018年5月31日 22時) (レス) id: 6f3d786cf4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:斑野 ニケ | 作成日時:2018年5月26日 15時