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「智ッ!」
松本が、全速力で坂を上って来る。後ろから、息を上げて警官が追って来ていた。
「その手を離せよ!智に触んじゃねえ!」
やはり男は、何を言っているのだと言わんばかりの顔をした。
警官は、何が起こっているのか分からず「落ち着きなさい」を繰り返した。
“オレタチ ハ アイシアッテルンダ ジャマスルナ”
「ふざんじゃねえ!智はお前のもんじゃねえよ!」
松本には、男の話す言葉が通じているらしい。大野には、混乱した脳が理解を拒否して、分からない。何も分からなかった。
「智は、死んでも誰にもやらねえよ!愛してんのは俺だからな!」
「まつじゅ…ん」
その言葉に、大野の顔付きが変わった。
「オメエ…触んなよ!オレに触っていいのは松潤だけなんだからな!」
男は、言われた事がゆっくり耳から脳へ届いて、頭蓋の中で考えているようだった。
“ナンデ ウソ ヲ イウンダ”
「嘘じゃない!松潤はオレので、オレは松潤のだもん!離せ!離せってば!」
それまで、寝惚けたようにぼんやりとした男の目が、すうっと見開かれた。
“ジャア オレ ダケノ モノニスル”
男の変貌に本能で動き、松本は拳を振り上げた。だが、男の足が、松本の腹にめり込んだ。リーチが長い。相当深く入ったのか、倒れ込んだ松本が苦しそうに呻いた。
「松潤!」
大野ががむしゃらに身を捩った。
「なにすんだよ!松潤!松潤!だいじょぶか!」
「ヘーキだよ。こんくらい…クソッ」
松本は、大野に笑って見せた。
その松本の表情が、凍り付いた。
警官も急に険しい顔で、警棒を抜いた。
大野の目の端に、何かが煌めいた。
真新しいサバイバルナイフが、鏡のように街燈の明かりを反射した。
「刃物を放しなさい!」
警官はそう言いながら、肩にある無線機で応援を呼んでいる。
「智!」
切っ先が、確実に自分に向いている現実を受け止められず、大野はただ呆然とした。
「刺すなら、俺を刺せよ!俺は智の恋人なんだから、憎いだろ!ほら!」
松本が、必死に男の標的を自分に移そうとした。
「刺せよ!」
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1980love(プロフ) - 美しいmさんの顔も、可愛いoさんも幸せそうな二人も。たくさんの場面が目に浮かびました。mさんのために自分を大事にしたいって思うように変化していくのがとてもキュンキュンしました。一緒に暮らし始めたふたりが末永く幸せでありますように…。 (2020年4月14日 12時) (レス) id: e576671ee9 (このIDを非表示/違反報告)
斑野 ニケ(プロフ) - 青龍葵様 読んで下さって有難うございます。カレーとシチューの時間軸が違うので、別の日になってるので間違っては無いのですが、字数の制限で詳しく説明が入れれなくて理解し難い書き方になってしまって、申し訳ありません(汗) (2018年10月4日 1時) (レス) id: 6f3d786cf4 (このIDを非表示/違反報告)
青龍 葵(プロフ) - 初めまして!素敵な作品で思わず一気に読ませて頂きました。また今後の活躍(MO小説)を楽しみにしてますw ※一部、誤字がありました。P82では「カレー」表記が、P84、P89では「シチュー」になってるので訂正お願いします。 (2018年10月3日 2時) (レス) id: 92632a3282 (このIDを非表示/違反報告)
あみ(プロフ) - 出遅れコメント 失礼いたします。かのお二人のお姿 お声 しっかり届き 溺れ 読ませて頂きました!そして何度も繰り返し読ませて戴き 癒されております。またの作品を楽しみにしています!あ〜ハイボールも美味い です! (2018年6月8日 19時) (レス) id: 6d8377daa0 (このIDを非表示/違反報告)
斑野 ニケ(プロフ) - 波智様 そ、そそそんなに褒められると穴掘って冬眠しそうです!今回は特にややこしい事抜きで、素直なラブストーリーを描きたかったので、楽しんで頂けてホッとしております。読んで下さって有難うございます。 (2018年5月31日 22時) (レス) id: 6f3d786cf4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:斑野 ニケ | 作成日時:2018年5月26日 15時