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言葉通り、松本は、帰りも迎えに来た。
大野の帰り支度を待ち、背中に手を添えて促すと、社員に「どうも」と頭を下げて、事務所を出た。
「オメエが帰ってから、すげーみんなに聞かれて仕事になんなかったんだからな」
「恋人が男だったから?」
「ううん、そこは気にしてなみたい、マジで。それより、どうやって告白したのかとか、デートとかしてんのかとか、中学生みてえなことばっか!」
松本が、声を上げて笑った。
「笑うな。オレがどんだけ恥ずかしかったか」
「でも、受け入れてくれて良かった…」
「小さいことにこだわんない奴らだから、っつーか変わってんだよみんな。社長を含め」
「でも、いい仲間だね」
大野は、ふんわりとした笑顔で頷いた。
「学校じゃさ、変人扱いされてたけど、あそこはもっと変な人間ばっかりで、オレなんかフツーな方なんだぜ」
細い指で口元を隠して、笑った。松本はその癖が殊更好きだ。
「暫くは、残業せずに帰った方がいいって。社長が」
「有難いな」
「変人なのに、優しいの。あの人じゃなかったら、オレ同じとこでこんなに長く働けてたかなって…思う」
松本は、大野の頭を撫でた。
擽ったそうに笑う大野が、愛おしかった。
初めて会った時は、もっと孤独な人かと思っていたが、大野の存在を肯定してくれる仲間が居てくれた事が、嬉しかった。
「キスしたいなぁ」
「な、なに突然言っての?バカじゃね?」
不意に、大野は松本に腕を取られ、脇道の電柱の陰に連れていかれた。そして、軽く、しかし深く口付けられた。
ほんの一瞬。誰も知らない、二人だけの一瞬。
「愛してる、…智」
「……オレも…」
「智が居なくなったら、俺生きていけない。だから…」
松本は、猫のように、頭を擦りつけた。
「命を賭けて、守るから」
「でも、無理はしないって約束してくれる?危ないことしないって約束して」
暫く見つめ合ったが、松本が折れた。目を細めた。
「智のお願いは、きかなきゃな」
「よし!じゃあ」
「ん?」
「晩ご飯の買い物、ついて来て。今夜は、五十嵐さんでも食べやすい、オレ特製の辛くないカレー作ってやるから」
「じゃあ、早めに五十嵐さんに連絡しとかないと」
松本は、ポケットから携帯を取り出して、画面に触れた。
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1980love(プロフ) - 美しいmさんの顔も、可愛いoさんも幸せそうな二人も。たくさんの場面が目に浮かびました。mさんのために自分を大事にしたいって思うように変化していくのがとてもキュンキュンしました。一緒に暮らし始めたふたりが末永く幸せでありますように…。 (2020年4月14日 12時) (レス) id: e576671ee9 (このIDを非表示/違反報告)
斑野 ニケ(プロフ) - 青龍葵様 読んで下さって有難うございます。カレーとシチューの時間軸が違うので、別の日になってるので間違っては無いのですが、字数の制限で詳しく説明が入れれなくて理解し難い書き方になってしまって、申し訳ありません(汗) (2018年10月4日 1時) (レス) id: 6f3d786cf4 (このIDを非表示/違反報告)
青龍 葵(プロフ) - 初めまして!素敵な作品で思わず一気に読ませて頂きました。また今後の活躍(MO小説)を楽しみにしてますw ※一部、誤字がありました。P82では「カレー」表記が、P84、P89では「シチュー」になってるので訂正お願いします。 (2018年10月3日 2時) (レス) id: 92632a3282 (このIDを非表示/違反報告)
あみ(プロフ) - 出遅れコメント 失礼いたします。かのお二人のお姿 お声 しっかり届き 溺れ 読ませて頂きました!そして何度も繰り返し読ませて戴き 癒されております。またの作品を楽しみにしています!あ〜ハイボールも美味い です! (2018年6月8日 19時) (レス) id: 6d8377daa0 (このIDを非表示/違反報告)
斑野 ニケ(プロフ) - 波智様 そ、そそそんなに褒められると穴掘って冬眠しそうです!今回は特にややこしい事抜きで、素直なラブストーリーを描きたかったので、楽しんで頂けてホッとしております。読んで下さって有難うございます。 (2018年5月31日 22時) (レス) id: 6f3d786cf4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:斑野 ニケ | 作成日時:2018年5月26日 15時