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「あ…」
答えを待つ永遠を、松本は感じた。
イルミネーションの光が映りこんだ大野の瞳は、潤んだように、揺れた。
「好き…」
その声は、夜風に消えてしまいそうだった。
「オレ…松潤が好き」
松本の緊張した唇が動いた。
「恋人として、付き合ってくれる?」
「ん…」
首をこくりと動かして頷いた大野を見て、松本が肺の底から溜息を吐き出した。
「良かった…。断られたらどうしようかと思った」
「え…」
「怖かったよ。舞台の初日がコケるより」
「バ、バカ」
軽く肩をはたくと、身体を傾げて、松本は嬉しそうにくすくすと笑った。伝播して、大野も笑った。
気恥ずかしさも相まって、ずっと笑った。
「抱き締めたい」
「ダメ」
「なんでよ」
「人がいるもん」
肩と肩をぶつけながら、会話した。幸せな戯れだった。
「じゃ、帰る?」
「うん」
立ち上がった松本は、大きく手の平を広げた。それに、大野は手を絡めた。少し汗ばんでる。本当に緊張していたのだ。
「ふふ…」
「笑うなよ、決死の思いだったんだから」
「おおげさ」
「大袈裟じゃねーよ。俺にとっては」
前を歩きだして、言った。
「大事なことなんだよ」
大野の胸が震えた。自分の想いが、彼にとって大事なものだったなんて、こんな幸福があるだろうか。
立ち竦むように動かない大野に訝しんで、松本は振り向いた。
「ありがと…」
大野は、子供がぐずるような顔をして、それが今にも泣きそうで、松本は焦った。
「ど、どした?大野さん?」
「んんん、なんでもない」
誤魔化すように、腕にくっついて、寄り添った。
イルミネーションの煌めく中を行く二人には、少しの恥ずかしさと嬉しさと、溢れる幸せに、誰よりもこの街が輝いて見えた。
そんな、どこにでも居る、付き合い始めたばかりの恋人同士になったのだ。
駅に向かい、電車に乗ると、目が合う度に、照れて口角が上がってしまう。大野は細い指で口元をさりげなく隠し、松本は暗い車窓を見た。
映りこんだ自分の顔があまりにもにやけていて、呆れたが、止めることはできなかった。
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1980love(プロフ) - 美しいmさんの顔も、可愛いoさんも幸せそうな二人も。たくさんの場面が目に浮かびました。mさんのために自分を大事にしたいって思うように変化していくのがとてもキュンキュンしました。一緒に暮らし始めたふたりが末永く幸せでありますように…。 (2020年4月14日 12時) (レス) id: e576671ee9 (このIDを非表示/違反報告)
斑野 ニケ(プロフ) - 青龍葵様 読んで下さって有難うございます。カレーとシチューの時間軸が違うので、別の日になってるので間違っては無いのですが、字数の制限で詳しく説明が入れれなくて理解し難い書き方になってしまって、申し訳ありません(汗) (2018年10月4日 1時) (レス) id: 6f3d786cf4 (このIDを非表示/違反報告)
青龍 葵(プロフ) - 初めまして!素敵な作品で思わず一気に読ませて頂きました。また今後の活躍(MO小説)を楽しみにしてますw ※一部、誤字がありました。P82では「カレー」表記が、P84、P89では「シチュー」になってるので訂正お願いします。 (2018年10月3日 2時) (レス) id: 92632a3282 (このIDを非表示/違反報告)
あみ(プロフ) - 出遅れコメント 失礼いたします。かのお二人のお姿 お声 しっかり届き 溺れ 読ませて頂きました!そして何度も繰り返し読ませて戴き 癒されております。またの作品を楽しみにしています!あ〜ハイボールも美味い です! (2018年6月8日 19時) (レス) id: 6d8377daa0 (このIDを非表示/違反報告)
斑野 ニケ(プロフ) - 波智様 そ、そそそんなに褒められると穴掘って冬眠しそうです!今回は特にややこしい事抜きで、素直なラブストーリーを描きたかったので、楽しんで頂けてホッとしております。読んで下さって有難うございます。 (2018年5月31日 22時) (レス) id: 6f3d786cf4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:斑野 ニケ | 作成日時:2018年5月26日 15時