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外に出て、まず大野の部屋のノブを見た。
何も無く、ほっとした。
借りた鍵でドアを開けて、ドアポストを開いた。
ギクリとした。
白いレジ袋。
松本は慎重に持ち上げた。開くと、派手な色の小さな箱が見えた。箱のコーティングはつやつやとしていて、新しいものだと分かる。
「なんだ?これ」
玄関は暗いので、松本は外に出た。改めて、その箱を掲げて見た。
網膜がそれを映した瞬間に、脊髄反射でレジ袋に戻した。
底に、また紙の感触がした。
“アイシテアゲル”
憤怒で、目の前に火花が散った。紙を握り締めかけた手を、理性でとどめた。大事な証拠だ。袋にねじ込んだ。
箱の正体は、ゲイが使う玩具だ。
抑え込むのが困難なほど、腹の奥から強い怒りが湧いてくる。肩が震えた。
落ち着け、落ち着けと、松本は自分に呪文をかけた。
これを大野の視界に入れてはいけない。部屋の鍵を閉めて、深呼吸をした。
さりげなさを装って、部屋に戻り、
「何も無かったよ」
と言った。大野は、「そっか」とだけ応えた。
背中で、レジ袋を握り締めて音を立てないよう隠し、寝転んで漫画を読む大野の横を、擦り抜けようとした。
「今度は何置いてったの」
松本は、驚いて大野の顔を見ると、無表情だった。
「なんで」
「少し遅いから、そうなのかなーって」
大野は、よいしょ、と体を起こして座った。
「なに?」
「アンタは見なくていいものだから。これは俺が証拠として預かっとく」
松本は奥の部屋の、大野の目には届かないクローゼットの一番上の棚の奥に入れて、ハットの箱で隠した。
リビングに戻ると、じっと松本を見つめる瞳に、不安が過ぎった気がして、傍に寄って、抱き締めた。
松本の肩に、大野は頬を押し当てて言った。
「だいじょぶ。オレ、怖くないよ」
懐いた犬みたいに、大野はむにむにと鼻まで擦りつけている。分かりにくいが、甘えているようだ。
「だって、オレは潤のだもん。だから誰にも触らせないもん」
「うん。触らせない」
「潤もオレのだからな。誰にも触らせんなよ」
「おや?意外と束縛するタイプなんだ」
「やだ?」
「大歓迎〜」
と嬉しそうに、松本は大野を抱き締めたまま、ラグの上に転がった。
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1980love(プロフ) - 美しいmさんの顔も、可愛いoさんも幸せそうな二人も。たくさんの場面が目に浮かびました。mさんのために自分を大事にしたいって思うように変化していくのがとてもキュンキュンしました。一緒に暮らし始めたふたりが末永く幸せでありますように…。 (2020年4月14日 12時) (レス) id: e576671ee9 (このIDを非表示/違反報告)
斑野 ニケ(プロフ) - 青龍葵様 読んで下さって有難うございます。カレーとシチューの時間軸が違うので、別の日になってるので間違っては無いのですが、字数の制限で詳しく説明が入れれなくて理解し難い書き方になってしまって、申し訳ありません(汗) (2018年10月4日 1時) (レス) id: 6f3d786cf4 (このIDを非表示/違反報告)
青龍 葵(プロフ) - 初めまして!素敵な作品で思わず一気に読ませて頂きました。また今後の活躍(MO小説)を楽しみにしてますw ※一部、誤字がありました。P82では「カレー」表記が、P84、P89では「シチュー」になってるので訂正お願いします。 (2018年10月3日 2時) (レス) id: 92632a3282 (このIDを非表示/違反報告)
あみ(プロフ) - 出遅れコメント 失礼いたします。かのお二人のお姿 お声 しっかり届き 溺れ 読ませて頂きました!そして何度も繰り返し読ませて戴き 癒されております。またの作品を楽しみにしています!あ〜ハイボールも美味い です! (2018年6月8日 19時) (レス) id: 6d8377daa0 (このIDを非表示/違反報告)
斑野 ニケ(プロフ) - 波智様 そ、そそそんなに褒められると穴掘って冬眠しそうです!今回は特にややこしい事抜きで、素直なラブストーリーを描きたかったので、楽しんで頂けてホッとしております。読んで下さって有難うございます。 (2018年5月31日 22時) (レス) id: 6f3d786cf4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:斑野 ニケ | 作成日時:2018年5月26日 15時