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昼食は、二人で出掛けた。
「老人は食が細いから、二人はどこかで食べておいで」
という言葉に背中を押され、松本は、大野を誘った。
「デートしよ」
「でも…」
「できるだけ楽しいことしよう。そうしないと、敵に負けちゃうことになるからね」
微笑むと、長い睫毛が揺れる。そんな綺麗な微笑みに抗えるはずもない。
「すごくイイ所にご飯屋さん見つけたから。きっと大野さんも楽しめると思うよ」
「オレが楽しめるところ?」
「近いよ」
電車に乗ったと思ったら、すぐに降りた。
そこは、観光客でごった返し、はぐれないよう慌てて手を繋いだ。
「やっぱ土曜日だから、混んでんね」
「どこ?」
「ここ」
松本が指差したのは、有名な美術館だった。
「ここの中にカフェがあるんだって」
「カフェ…なんかあったっけ」
何度か訪れた事はあるが、大概一人でふらりと来るので、気にしたことが無かった。
カフェなんてお洒落な響きの場所は、やはり苦手だ。
松本が、嬉しそうに手を引くので、仕方なく付いて行った。
だが、その美術館の一角にあるカフェは、優しい雰囲気が漂っていた。温かみのある牧歌的な作りで、全面ガラス張りの窓からは、緑が溢れている。
松本は、カフェスタッフに「窓際を」と言うと、笑顔で案内された。
年配の夫婦が目立つ。居心地が良い。
「ランチもあるし、ケーキセットもあるよ」
「ほんと?じゃオレ、ご飯少な目にしてケーキいっぱい食べたい」
「ケーキ好きなの?」
「うん。たまにすごーく食べたくなる」
「そっか。俺、大野さんのことまだ全然知らないな」
ケーキのメニューを嬉しそうに見ていた大野の目が、松本に移った。
「オレだって、松潤のことなんにも知らないよ。だから…」
もじもじと、自分の両の指先を絡めて言った。
「いろいろ…教えて」
松本は、目を細めた。
「うん。いろいろ…たくさん話そう」
二人は、幸せな笑みを交わした。
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1980love(プロフ) - 美しいmさんの顔も、可愛いoさんも幸せそうな二人も。たくさんの場面が目に浮かびました。mさんのために自分を大事にしたいって思うように変化していくのがとてもキュンキュンしました。一緒に暮らし始めたふたりが末永く幸せでありますように…。 (2020年4月14日 12時) (レス) id: e576671ee9 (このIDを非表示/違反報告)
斑野 ニケ(プロフ) - 青龍葵様 読んで下さって有難うございます。カレーとシチューの時間軸が違うので、別の日になってるので間違っては無いのですが、字数の制限で詳しく説明が入れれなくて理解し難い書き方になってしまって、申し訳ありません(汗) (2018年10月4日 1時) (レス) id: 6f3d786cf4 (このIDを非表示/違反報告)
青龍 葵(プロフ) - 初めまして!素敵な作品で思わず一気に読ませて頂きました。また今後の活躍(MO小説)を楽しみにしてますw ※一部、誤字がありました。P82では「カレー」表記が、P84、P89では「シチュー」になってるので訂正お願いします。 (2018年10月3日 2時) (レス) id: 92632a3282 (このIDを非表示/違反報告)
あみ(プロフ) - 出遅れコメント 失礼いたします。かのお二人のお姿 お声 しっかり届き 溺れ 読ませて頂きました!そして何度も繰り返し読ませて戴き 癒されております。またの作品を楽しみにしています!あ〜ハイボールも美味い です! (2018年6月8日 19時) (レス) id: 6d8377daa0 (このIDを非表示/違反報告)
斑野 ニケ(プロフ) - 波智様 そ、そそそんなに褒められると穴掘って冬眠しそうです!今回は特にややこしい事抜きで、素直なラブストーリーを描きたかったので、楽しんで頂けてホッとしております。読んで下さって有難うございます。 (2018年5月31日 22時) (レス) id: 6f3d786cf4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:斑野 ニケ | 作成日時:2018年5月26日 15時