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怒り ページ2

ふいにくらったのか、
彼の腹筋は柔らかくて

質のいい筋肉は
力をいれないときには
柔軟なんだなと
再確認させられた

さすがアスリート

でもね
人は理解できないことに出会ったとき
なんで?どうして?
と思う不可解な心理は
怒りになるらしい

私の頭のなかは
必死でお腹を押さえて
声を出さないようにしてる彼を
彼を責める言葉しか
浮かんでこなかった

彼のからだが大事なからだ?
そんなのどうだっていい

殴る権利が私にはある

2年間、なんの連絡もなかった
諦めたのよ、わたし
あなたに会いたくて
気が狂いそうだった


(あんたなんて!
あんたのことなんて
覚えてないわよ!)

と言おうとしたけど
声にもならなくて
代わりに涙がまばたきもできない
まぶたから溢れてきた

『ちょっ…!わっ…』

どんな顔してるのか
わかんないけど
慌ててるのはわかる

ななめがけしてた
ボディバッグをあわててはずして
そこから彼は
タオルを探し当てて
わたしに渡した


タオルはきれいに畳まれていて
たぶんミニタオルで

そこからは
結構強めの柔軟剤のかおりがした
きっと、海外のものだ


受け取っただけで
涙をふく気もせず
ただ流れるままにしてたら

そのタオルを彼は
わたしの手からそっと取って
わたしの涙を
押さえるようにふいた

それって
化粧がとれないようにする
女の子のふきかた…


やりそう
このひとそういうのやりそうだわ


「ねえ、どこでそういうの
覚えてくるわけ」

『えっ…!!』

「まつげやらマスカラやら
とれないような涙のふきかた」

『ぶっ……』

「なによぶっ、て
ブスになるよっていいたいの?化粧剥げ落ちると見られないよって?」

『………』

「どうせそうよ、すっぴんなんて見られたもんじゃないわよ。忘れたでしょわたしの顔なんて。
2年も会わなきゃそうよね
会いたくもなかったんでしょ、だからほっとけるんでしょ、今だって困ってるんでしょ、わかるんだからね、わた………」


まくし立てるわたしに
逆行のシルエットから
黒い影がのびてくる


「きゃっ……」


言い過ぎた
言い過ぎて怖くなって
その影から逃げようとした

少し冷たい指が、手のひらが
首の後ろにあたって

わたしの、額を
その胸のジャージに押し付ける


ぎゅっと、とがった指からの
ちょっと強い圧力を感じる


『…ごめん』


って聞こえた気がしたけど
耳の奥がどくどくと
脈打って回りの音は、かき消えて

わたしの涙が
彼のジャージの胸に
吸いとられていく様を
じっと見た

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作品ジャンル:恋愛, オリジナル作品
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作者名:wintersong | 作成日時:2020年1月23日 15時

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