ふたりきり、さいごまで/ut ページ10
「…ぐ、っ……は、」
息が荒い。気持ちが悪い。痛い、とても痛い。
帰り道をつけられていたらしい。家の鍵を開けて中に入った瞬間、だと思う。そして身体を何度か刺されたのだ。強盗だった。携帯を探そうにも、もう腕を上げる力すら残っていない。目も開けられない。口の中も血が溢れてきて気持ちが悪い。
わたし、死ぬんだ。
やっと、やっと人並みに暮らせるようになったのに。親はいない。親戚だってわからない。そんな中でやっと仕事に就けて働ける、はずだった。なのに、どうして？
誰からも気付かれずに一人で死んでいくの？
怖い、怖いよ。
「………？」
微かに、煙草の匂いが香った。わたし、煙草なんて吸ったこともないのに。
「…ああ、おった」
ひどく優しい声だった。男の人の声だったけれど、どうしてか怖いと思わなかった。
ゆっくりと目を開く。彼は倒れ伏したわたしの目の前に、いた。スーツを着て、眼鏡をかけている。表情はよくわからない。胸のポケットには煙草の箱。
いつの間にいたんだろう。どうしてここにいるんだろう。
「俺は天使でも、死神でもあらへん。君のことも助けられへん」
どうしてだろう、酷い事を言われているのに、納得している自分がいる。それどころか少しずつ、気持ちが凪いできた気さえする。
「ただ、君を一人にはさせん。君が眠るまでずっとここにおるから」
そっと、壊れ物を扱うかのように頭を撫でられる。優しい、優しい手だった。
「一人で、よう頑張ったな」
涙が出てきた。ずっと、ずっと欲しかった言葉だった。
「がん、ばっだ…の…」
「せやなぁ。ほんまに、ようやった。偉いな」
「うん"…っ…」
「よしよし、ええ子。ええ子やな」
涙が溢れて止まらなかった。彼はその間もずっと、わたしに触れてくれていた。
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作者名：ジャック | 作成日時：2023年6月14日 0時
