君と日常を送りたい/rb ページ5
「あ！Aみーっけ！」
大きな声に振り返る。シャーッ、というローラースケートの音と共に、scp-131――ロボロがこちらへと駆けてくるところだった。
「おはよう、ロボロ」
「おはようさん！」
きゅきゅっ、と器用に私の目の前で停止し、にっこりと形容できる表情をロボロが形作る。顔を覆い隠す布で本当の表情まではわからないが、この布は実に表情豊かだ。
布の面いっぱいに「天」と書かれ、おそらく左目が存在する辺りに何故か片目だけが描かれている。どうやっているのかは謎だがこの文字と目がよく動く。ロボロがそうやって表情を作るのを見るのが面白くて好きだった。
ロボロは私の所属しているサイトに収容されているオブジェクトの中でもとびきり、懐っこくて無害だった。
勿論、safeクラスとはいえ完全にそうであると決まったわけではない。安全だと思い込んで大惨事となったケースは少なくないのだ。それでも神経をすり減らしてこの仕事を続けている中で、ロボロのように穏やかに笑い合えるオブジェクト(この言い方もどうかと思うけど)は中々いなかった。
「なぁA、追っかけっこしようやぁ」
「ごめん、これからDクラスの清掃の監視があるんだ」
「清掃の監視…？もしかしてあいつ？あの、最近来たやん」
「うん、SCP-173。副担当になったんだ」
そう言うと、ロボロは顔を思いっ切り顰めた。懐っこい彼には珍しい表情だ。
「……俺、アイツ嫌いやねん」
「そうなの？よくわからないけど…」
「アイツ、何や嫌な感じやわ。A、俺も着いてってええ？」
「うーん、でも許可が…」
「んー…しゃあないな、でも気ぃ付けや？アイツめっちゃ悪そうなツラしとるし」
「…ロボロがそこまで言うなら気を付けるよ、ありがとね」
ヒラの身分から副担当になったのだ、少しでも頑張らないと。気を遣ってくれることに嬉しさを感じつつ、不安げな表情のままのロボロと別れた。ロボロの言うように気を付けていれば、きっと大丈夫。きっと――。
そんな甘い考えを、あの石像はいとも簡単に打ち砕いた。
「――ご、げっ？」
ごきり、と嫌な音が響く。首が、折れたんだ。嫌な光景から目が離せない。いや、離してはいけないのだ。離してしまえば、…あ。
瞬きをしてしまった。
「ひぃっ！！たす、ぐげっ」
唯一残ったDクラスと、瞬きのタイミングが同じだったようだ。
一瞬のうちに距離を詰められ、彼は死んでしまった。
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作者名：ジャック | 作成日時：2023年6月14日 0時
