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不思議なやつやな、と彼は更に首を傾げた。怖くないわけじゃなかった。怖かったけれど、それよりもひとりの方が嫌だったし、わたしの顔を見て何も言わないことが嬉しかった。
それを隠さず話すと、彼は黒い触手を動かしてわたしの髪に触れて「きれいやのに、変やんなぁ」と言った。そんなこと言われたのは生まれて初めてで、無性に泣きたくなるのを堪えて、気になっていたことを聞いた。
「あなた、だれ?」
そう聞くと彼はうんうん唸って、考えこんでしまった。そうしてしばらくして「あ!」と言ったかと思うと、瞬く間に消えてしまった。
「え…え?」
周りを見渡してもあるのは緑だけで、彼はどこにもいなくなった。またひとりに戻ってしまった。
一瞬、一瞬だけ、一緒にいただけなのに。どうしてこんなに悲しくなるのだろう。だって、わたしを肯定してくれたひとなんて初めてだった。涙が勝手に溢れてきて、手でごしごしと拭っても止まなくて。
すんすんとしゃくり上げていると、かさり、と何かが頭の上に降ってきたと同時に、何かに背中をつつかれた。
思わず振り向くと、紙の束やツナギを着た人間を抱えて彼が立っていた。
「それ、俺ん名前!」
報告書だったり、落書きのようだったり様々な紙の束には、どれもSCP-2521だとか、zomuだとかが書いてあった。
「2、5、2、1…?うんと…あなた、ゾム?」
「ん!」
ゾムが黒い触手を伸ばしてきた。どうしてだろう、フードを深く被っているのに、にっこりと笑っている彼の顔が想像できる。
「ゾム、わたしを連れてってくれるの?」
「おん!俺、お前好きになった」
他の誰かが見たらおぞましい光景かもしれない。わたしの身体はゾムの触手で覆われはじめている。でも、わたしはゾムが笑ってくれていることが、一緒に連れていってくれることが嬉しくて、こんな気持ちは生まれて初めてで。
「わたし、Aって言うの」
「A、Aやな!ええやん!」
視界が黒に包まれる。それでもとても温かく感じる。
「ねえゾム、」
どこへでも一緒に連れていって。
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SCP-2521 - "●●|●●●●●|●●|●"
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作者名:ジャック | 作成日時:2023年6月14日 0時