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「被験者を一人、お願いします。そうですね…そこにいる、白衣の男性が好ましい」
白衣の男性とは、私を妬み陰口を囁いていた上司だった。彼はもうへらへらと笑うばかりで何もできない。
私は他の同僚たちが助かるのであればと、上司をエーミールに捧げることにした。
「ありがとうございます。ふふ…気に入らない男ではありますが、やはり実体が在るのは良い」
「エーミール…?」
「Aさん、こんな所、出ていきましょう?周りを見てください…もう、誰も残っていません。ここにいるのは私と、貴女一人だけ」
そう、そうだ。
見ないふりを、気付かないふりをしていたけれど、このサイトにはもう、私しか残っていないのだ。皆精神が汚染されて動かなくなってしまった。
私はその報告を他のサイトに連絡した、はずだ。全てエーミールが仕組んだことだと、でも、助けはいつになっても来なかった。
「いいえ、報告なんてしていませんよ。Aさん、最近頭の中がぼやけるようなことはありませんでしたか?」
ふふ、と彼が笑う。最初に出会った時のように愉しそうな顔で、彼が笑う。
「貴女を問題なく手に入れるまで時間がかかってしまいましたが、お喋りも楽しかったので良しとしましょう。ああ、お話をして時間を重ねていくなんて、まるで恋人同士のようじゃありませんか」
ああ、ああ、私はなんてことを。彼からこぼれ出る液体が、サイトを侵食していく。仲の良かった同僚も、顔見知りの研究員も皆腐食していく。
それなのにどうして私は無事なんだろう。私だけ精神も安定して、液体にも触れずに、
「貴女は駄目ですよ。ずっと私の隣に居てもらうんですから。これでもAさんが汚染されないように頑張っているんですよ?」
さあ、行きましょうか。
真っ白な衛生用の手袋を付けたエーミールが、私の手を引く。新郎のようで気恥ずかしいですねと言って、彼は笑った。
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SCP-035 - "取り憑くマスク"
著者: noctium
URL: http://scp-jp.wikidot.com/scp-035
作成年: 2013
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作者名:ジャック | 作成日時:2023年6月14日 0時